「はぁ? 妖精? お前が?」
「はっ、はい!」

 苦し紛れに、突拍子もないことを口にしてしまったのは自覚しているけれど、もう言ってしまったものは仕方がない。

 ここはなにがなんでも、この設定で押し通すしかないと思った私は、童話で読んだ(はかな)げな妖精を思い浮かべながら弱々しく頼み込んでみる。

「私、妖精なので……人間と関わっちゃいけなくて……なので、どうか、どうか見逃してください……!」
「フッ、アハハハッ! 妖精って、そんな子供だましが通用すると思っているのか? あぁ、バカバカしい!」

 少年はひとしきり笑ってから、なにかを思いついたような顔つきになって、腕組みしながら偉そうに呼びかけてくる。

「それでは、そこの者! 本当に妖精だと言うのなら……。人間の悩みなど、簡単に解決できるはずだよな?」
「え? ええ、多分……」
「多分、だと? 自信がないのか? それでは、勝手にこの場所に入り込んだ罰を受けてもらわなければいけないな」

 少年はこれから大声を上げるぞ、というようなそぶりで両手を口元に持っていき、大きく息を吸い込む。

(大変! 人を呼ばれたら、とっても困る!)

 私は慌てて少年の手を押さえ、小声で告げた。