向こうは、見るからに育ちのよさそうな貴族子息。
 かたやこちらは、髪の毛から紅茶を滴らせた、ずぶ濡れ女。

 こんな状況を誰かに見られたら、たとえ私が少年になにもしなくても、変態もしくは変質者と見なされて捕まってしまうかもしれない。

(ど、どうしよう……とっ、とりあえず、穏便にこの場を立ち去らないと!)

 必死に考えた末に私が思いついたことは、両手を挙げて降参の姿勢を取ることだった。

 笑顔を浮かべて、『貴方(あなた)に危害を加えるつもりはありませんよー』と意思表示しながら、無害さをアピールしつつ後ろに下がってみる。けれど……。

「待て。不審者」

 あぁ、呼び止められちゃった。やっぱりこの作戦はダメよね……。

 疑わしげな視線を向けてくる少年を落ち着かせるように、私はさらに口角を持ち上げて笑みを深めた。

「大丈夫、大丈夫、安心して。私は怪しい者じゃありません。怖くない、怖くないですよ」
「わ、笑うな! なおさら不気味だ!」
「えぇっ……。なんだか、すごく辛辣(しんらつ)……」