数秒の見つめ合いの後、天使のような美少年は盛大に顔を引き()らせて、突然こちらに人差し指を突き出した。

「バッ、ババッ!」
「ん? ババ?」
「バッ、バッ、バケモノ……!?」
「ええっ、バケモノ!? どっ、どこにっ!?」

 私は悲鳴を上げて一目散にその場から逃げ出して、噴水のそばにあるガゼボの陰に隠れた。

 バケモノとかオバケとか、私、そういう怖いものは大嫌いなの!
 そーっと顔を出して辺りを見回していると、なぜか美少年が駆け足で追ってくる。

「おい、バケモノ! なぜお前が逃げるのだ?」
「ええっ!? 私がバケモノ? どうして?」
「お前、自覚がないのか? 顔はグチャグチャだし、髪の毛からなんか茶色の液体が出ているその姿、どう見たってそうだろう」
「液体? あっ、これは紅茶です」
「髪から紅茶!? やっぱり、バケモノじゃないか!!」

 少年はそう叫び、物珍しそうに私のことをまじまじと見つめてくる。

 令嬢なのにバケモノ呼ばわりされて、おまけに珍獣を見るような目つきで観察されるなんて。  
 うぅ……今日は災難続きだわ……。