そういえばここに来る途中、確かお化粧室の前を通ったような気がする。
 どうか誰にも出会いませんようにと願いながら、私は微かな記憶をたどり、お化粧室を探して歩き出した。

 しかし、いつまで経ってもビロードの絨毯(じゅうたん)に白い壁紙の廊下が続くだけで、目的地は見えてこない。

(あれ? 確かこの辺りだった気がするのに、おかしいなぁ……)

 慌てて引き返して別の道を進んでみたり、行ったり来たりしているうちに、化粧室どころかお茶会の部屋にすら戻れなくなってしまった。

 田舎の領地は一本道ばかりだから気付かなかったけれど、もしかして私、方向音痴だったの……!?

「ううっ、よりによって王宮で迷子になるなんて……クシュン! うぅ、さ、寒い……」

 震えながら彷徨(さまよ)い歩いていると、遠くに日の光が燦々(さんさん)と差し込む大きな窓を見つけた。
 まるで光に誘われる羽虫のように、暖かそうな陽気に誘われて自然と足がそちらへ向いてしまう。

「あぁ……あったかい……」

 日当たりのよい窓辺に佇み外を見ると、そこは陽光が降り注ぐ美しい中庭。
 このままだと風邪を引いてしまうから、ドレスと髪を乾かすまで、ほんの少しだけなら外に出ても構わないよね。