「キャッ! ちょっと! こっちにしぶきを飛ばさないでよ! わたくしのドレスが汚れるじゃない!!」

 ロザリーが大げさに悲鳴を上げるので、私は軽く頭を下げて謝るが、手は止めない。
 だって、まだ濡れているんだもの。
 きっとロザリーのことだから、ティーポットの中身を全部かけたのだろう。

 そうしている間にも、こちらの様子を窺っていた別テーブルの令嬢たちが、ヒソヒソと言葉を交わしはじめる。

「あんなことをされても冷静でいられるなんて、あの子、すごいわね」
「ええ、わたくしなら、きっと泣いてしまうと思うわ」
「素晴らしい大人の対応だわ。わたしも見習いましょう」

 周囲から集まる私への賞賛が(かん)に障ったのか、ロザリーが突然大声で喚き散らす。

「うっ、うるさい! そんなみっともない格好で、わたくしの隣にいるのは許さない! 目障りよ、出ていって!」

 みっともない? 私をこんな姿にしたのは貴女なのに、という反論をゴクリと呑み込み、私は控えめにロザリーに告げてみる。