私は『なにするの!?』と怒る前に、『あぁ、これ熱くなくてよかった……』と安堵(あんど)した。
 頭皮を火傷するなんて、想像するだけで悲惨だもの。

 心を落ち着けて自分の状況を確認してみると、濡れて肌に貼りついた 薄紫色のドレスは、紅茶のせいで茶色いシミになっていた。
 あぁ……お気に入りの一着だったのに……。

「フフッ! わたくしに感謝なさい! 田舎臭がひどいから、消して差し上げたのよ」
「まぁ! さすがですわ、ロザリー様!」
「あのね、いいこと? 野蛮令嬢。新入りはロザリー様の洗礼を受けるのがしきたりなのよ」

(えぇ……? なんて変なしきたりなの……)

 高飛車に言い放つロザリーに、取り巻きの令嬢たちが賛同して笑いながら賞賛の拍手を送っている。

 あまりにもひどい言葉の数々にさすがに腹が立ってくるけれど、相手は親の権力を振りかざす悪質極まりない公爵令嬢。
 慎重に対応しなきゃ、これから先の学校生活、いばらの道を歩むことになるわ。

 我慢、我慢……と自分に言い聞かせながら、ひとまずハンカチで顔と髪を(ぬぐ)ってみるものの、あまりにもびしょ濡れで(らち)があかない。

 試しに濡れ髪を束ねて雑巾を絞るように軽く捻ると、滝のように紅茶が滴り落ちた。