「あぁっ、(くさ)い! この席、すごく臭いのだけれど」
「ロザリー様、これは田舎臭ですわ!」
「田舎臭? 嫌だ。どこの田舎者が()き散らしているのかしら? すごく迷惑だわ!」

 あざけるようにクスクスと笑っているけれど、そもそも田舎臭ってなんだろう?
 確かにオルティス領は田舎だけど空気がとても澄んでいて、深呼吸をすると草花のよい香りがするのに。

 俯いたままそんなことを考えていると、ビチャビチャッ──という耳障りな音と共に、いきなり頭上から冷たいなにかが降ってきた。

「え? なに……?」

 自分の身に起きた出来事に呆然としていると、前髪からポタッポタッと茶色い(しずく)が滴り落ちて、その香りと色でようやく理解する。

 ロザリーに、頭から紅茶をかけられたのだと──。