そうして私たちは、静かにオルティス領へ帰ろうとしていたのに……。
 数日後、思わぬ事態に巻き込まれてしまったようで、父は帰宅するなり険しい表情で状況を語りはじめた。

「チェスター侯爵子息が、お前のことを〝野蛮令嬢〟だと吹聴しているようだ。事を収めるよう先方に願い出たが、取り合ってもらえなかった。だが、このまま手をこまねいてはいられない。そこでだが、ジュリエ、女学校に入ってはどうだろうか?」
「女学校、でしょうか?」
「あぁ。名門校を卒業すれば、お前の悪評を払拭できる上に令嬢としての(はく)もつくだろう。この際、しっかりと淑女教育を受けてはどうかと思ってな」
「けれど、入学時期はもう過ぎていますよね?」
「それについては、心配いらない。任せなさい」

 父は明確なことは言わないけれど、その口ぶりから察するに、多額の寄付金を積んで根回しをするのだろう。

 できることなら、そんな方法で女学校に入らず、領地で家族と穏やかに暮らしたい。
 けれど、私の将来を案じる父の気持ちが痛いほど伝わってきて、〝 嫌です〟とは口が裂けても言えなかった。