母が亡くなってから男手ひとつで私たちを育ててくれた父に、少しでも親孝行したいと思って頑張ってみたけれど、こんな結果になってしまって胸が苦しい。

 せめて事が穏便に収まりますようにと願いながら、私はその夜、眠りについたのだった。


 翌日、チェスター侯爵家からの書状を読んだ父が、険しい面持ちで手渡してくる。
 そこに書かれていたのは。

【当家は、大事な跡取り息子のカインに剣を突きつけるような、野蛮(やばん)な令嬢を迎えるつもりはない。ゆえに、この見合い話はなかったものとする】

 ──という、事実の一部を切り取り、私を一方的に悪者にするような内容だった。

「今すぐチェスター侯爵家に抗議書をしたためる。このまま見過ごすわけにはいかないからな」
「待ってください、お父様。もうこれで終わりにしましょう」
「だが……!」
「侯爵家に異議を唱えて、お父様の立場が悪くなってしまったら……私はきっと、自分を許せなくなってしまいます。これ以上、ご迷惑をおかけしたくないのです」

 そう告げれば、父は私の気持ちを分かってくれたようで、悲痛な面持ちながらも(うなず)いてくれた。