「カイン様、大丈夫ですか?」

そっと声をかけてみるも、彼は座り込んで顔を伏せたまま返事をしない。

「どうしよう……ごめんなさい。今、助けを呼んできますね」

 屋敷の中に駆け込み、使用人にカインの様子を伝えて共に戻ってくると、もう彼の姿はなく。
 そこにあったのは、床に叩きつけたと思われる、粉々になってしまった陶器のティーセットの残骸(ざんがい)だけ──。


 その後、王都の別邸に戻った私は、怒られるのを覚悟して父にすべてを打ち明けたけれど、返ってきた言葉は意外にも穏やかだった。

「事情は分かった。後は侯爵子息 が父親にどう話すかだが、まずは向こうの出方を見てから対処しよう」
「はい……。本当にごめんなさい、お父様」
「お前の気持ちもよく分かる。あまり気にすることはない。それにしても、護身用に習わせていた剣術がこんなところで役に立つとは。ハハハッ!」

 クライン王国の貴族社会では、令嬢は花嫁技能に優れていればよく、剣や乗馬などはもってのほかという風潮が強い。
 そんな中、進歩的な考えの父は、私が興味を示したことは弟のディランと共になんでも学ばせてくれる。