幸福と奇跡を運ぶという〝聖なる青い鳥(ブルーバード)〟の伝説が語り継がれている、クライン王国のエヴァンズ公爵領。
 その領都にそびえ立つ歴史ある大聖堂にて、今まさに王弟とその伴侶(はんりょ)となる私の結婚式が執り行われていた。
 
 ステンドグラスから差し込む七色の光が聖堂内を美しく彩り、澄んだ静けさの中、祭壇の前に立つ神父の(おごそ)かな声が響き渡る。

「新郎、ルーファス・クライン・エヴァンズ。(なんじ)はジュリエ・オルティスを妻とし、病める時も健やかなる時も愛し支え合い、生涯の伴侶として真心を尽くすことを誓いますか?」

 隣から「はい、誓います」と低く伸びやかな声が聞こえてきて、続く神父の問いに私も俯きがちに誓いの言葉を口にした。

「それでは、指輪の交換を」

 辺りを満たす(まばゆ)いばかりの光の中、新郎と向かい合った私は、薄いレースのヴェール越しに彼を見つめる。
 輝きをまとい佇む新郎ルーファス王弟殿下は、上品な雰囲気の美しい貴公子だった。

 軽く後ろに撫でつけた柔らかな金髪、形のよい額にスッと伸びる綺麗な鼻筋。
 目元は涼やかで、口元にはいつものように微笑みを湛えている。

 だけど、私は気が付いていた。
 その端正な顔立ちを彩る笑顔が、偽りであることに──。