翌日から私への意地悪がピタリと止んだ。
宇良先輩が魔法でもかけてくれたようだ。
私は宇良先輩に感謝した。
だから、彼の距離感と私の距離感の差が次第に埋まっていく。
でもその距離感に胸臆《きょうおく》を複雑にするものがいた。
「ねえ咲来さんって、晴《はる》のこと好きでしょ?」
「晴さん……って誰でしょうか?」
「やだなー宇良だよ、宇良晴《う ら はる》」
部活が終わって下校中、駅の構内で都成先輩とばったり会った。
都成先輩も私と同じく電車登校で、同じ方向だけど、一駅ですぐに降りてしまう。
ホームで電車をふたりで待っていると都成先輩がいきなりとんでもない内容を切り出したのである。
宇良先輩って、下の名前、お天気の晴れの晴なんだ。初めて知った。
それよりも都成先輩、なんてストレートな聞き方してくるんだろう。
違いますって言えば気が楽だ。
でも、この裏表のない優しくて親切な都成先輩には私の“気持ち”を捻じ曲げて伝えたくない。
「はい、そうだと思います」
「そっか~、ちなみにボクも晴のことが好きなんだ」
「はい?」
「友人として、ではなく晴のことを男性として好きなんだ」
「……」
とっさに返事ができなかった。
都成先輩と宇良先輩は演劇部員の中で、ふたりしかいない男子。
ふたりが、すごく仲がいいことはこの3ヶ月でよく知っている。
でも、友人として接していたはずの都成先輩の気持ちが、そういう感情を抱いていたなんて、ちっとも気が付かなかった。
どこまでも真っ直ぐなひと。私はこの都成先輩というひとを嫌いにはなれない。
「でもさ、咲来さん、これは正当な勝負、恨みっこなしで行こうね?」
「……はい」
かろうじて返事はできたが、都成先輩の気に障らなければいいんだけど……。