マネージャーが学校近くまで迎えに来てくれていてその足で事務所へ向かう。学校から事務所に向かうのもこれが最後かとボーッと路を眺める。
 正直、しんどいと思いながらこの景色を眺めた日のほうが多かった。

 事務所の地下駐車場に到着すると同時に先輩からの電話が鳴り響いた。

 私の探知機でも持っているのか。


「おい、まだ〜? 遅くねぇか?」

 今日は事務所に呼ばれたといってもマネージャーや上の人から注意されたり起こられたりするわけではなく、私を呼び出したのは大先輩のお兄さんだ。通話越しにも彼らがいつも通りふざけあってる声が聞こえる。いつも元気なんだよな、あのお兄さんたち。

「今つきました!」

 うちの事務所は、デビューしたアーティストと練習生たちとで建物が違う。ダッシュで駐車場から既にデビュー済みのアーティストたちが使っているほうの建物に入り、普段私たちが休憩中に使ってるフロアへ向かった。

 人影を感じるや否や、
「ユリ!!!!卒業おめでとう〜!」
 真っ先に私に向かって拍手し始めたのは先程の電話の相手、先輩グループの中でも一番上のお兄さんだ。   
 私からしたらみんな“オッパ(お兄さん)“なのだけれどもこの人だけは本物のお兄ちゃんのようだ。私より一回りも上だしデビュー前からもたくさん可愛がってもらっている。
 そして同じ場には彼のメンバーの面々が揃っていてみんなが盛大に祝ってくれた。
 彼らの名はSuperboys。スパボの愛称で親しまれている。2005年にデビューして社会現象にもなるほど人気を博した13人メンバーの大所帯グループ。事務所に限らず韓国アイドル界の中ではベテランの域に達していて彼らを憧れの先輩として挙げる男性アイドルも少なくない。
 チョルスも先輩たちのことをロールモデルにしてるといっていた。チョルスが所属するデビュー予定組がオッパ達と同じく大所帯だし見習いたい部分が多いのだそう。

 確か今日は彼らのデビュー初期からのマネージャーさんの結婚式だそう。その前に事務所に集まるから、ちょっと来て欲しいと言われた。

「お前が成人か〜ワイン一緒に呑む?」

 私よりも7個上だけど事務所に入った時期で言えば完全に同期なせいかお互いにちょっとイジりあえる先輩もいれば

「おめでとう。なんだか実感湧かないよ。もう成人だもんね!」

 私の成長になぜか涙ぐんでる先輩もいて

「ほら〜写真撮るんだから泣かないでよ〜」

 メンバーのなかでジェントルマンな先輩が宥めるように私の肩をそっと撫でた。

 私が初めてこのオッパ(お兄さん)たちに会った時私は10歳だった。彼らは当時デビューを目前に控えていたから私が練習生として通うようになってからすぐに練習生用の等には来なくなっちゃったんだけど一番年下だからって面倒をよく見てくれた。
 だからいつまで経ってもみんなにとって幼い妹って感じらしい。

 私からしても、同世代の男の子たちはあまり近寄ってこないし近寄ってきてもまるで腫れ物に触れるかのように扱ってくるから親しくはなれない。
 それに対してこちらの先輩たちは私をただの妹のように気楽に扱ってくれるから私も接しやすい。子ども扱いされたりイジられたり、他の人たちにはそんなことされないから本当に仲良い気がしてなんだか嬉しい。

 みんなで集合写真を撮って別にそれ以外はこれといった用もなさそうにしているお兄さん方。
 私、なんのために呼び出されたんだろう。

 一番そばにいてほしい人は、結局いないし......