その晩、私はぼんやりと窓の外を眺めながらとある曲を口ずさんでいた。私のお気に入りの曲。
 スーパーボーイズのアルバム収録曲のひとつで、リク先生が手がけた“月“というタイトルのバラードだ。
 先生のことを好きになる前から先生の才能には圧倒されていたし手掛けた楽曲も好んで聴いていた。
 先生の曲はラブソングが多い。曲調もロマンチックな上に、普段の先生を知る身からすれば「本当にリクPD(プロデューサー)が書いたの⁉︎」と疑いをかけてしまうような甘さのある歌詞。
 私が家事をしながらよく口ずさむ“月“もちろん歌詞が最高に良い。
 ただ、歌詞ってきっと先生が経験してきた恋愛そのものなわけで、特定の女性に対してこんな感情を抱いていたと思うとすごく妬けてくる。
 私好みでバラード調のこの曲、好きになってから歌詞をじっくりと考えるようになった。
 この歌に出てくる【月が綺麗ですね】って歌詞、要は相手を月に喩えてるんだろう。
 あんなにクールな先生にこんなにもロマンチックな歌詞を書かせちゃうような女の人、心底羨ましい。

 私の見上げた先にある今夜の月は丸くて大きくて輝いている。
 先生が綺麗だと思った月もきっとこんな夜空を照らすような満月なのだろう。それに比べて私は新月のような女だから。
 私がそこに居たって先生は見向きもしないんだろうなあ。

「はあ、諦めたい」

 月を見ながら泣くのは初めてだ。

 好きだと伝えてくれた人とのことを真剣に考えてみよう気にはなり、なんだか心が落ち着かないままカムバックを迎えた。