「俺、少し前に本当に辛かったんだ。
俺が何も言ってないのに察して、心配してくれて」

 彼が言ってるのは2ヶ月ほど前のことだろう。
 あの時は親しくなったばかりで、ハル先輩って結構脆いのかもと思いもしたけど今では本当に偶然あの時が落ち込んでいただけだと明確に分かる。普段はそう弱い人じゃない。
 私が何も言わず黙ってそばに寄り添っていたのが彼にとっては心地よかったらしい。

「年下なのに年上みたいで……」
「何回タメ口でいいよって言っても敬語のままなとことか、気を遣わないでって言ってるのに差し入れ持って来てくれるとことか、いい子だなって」

 些細なことを見逃さずに見てくれているのが正直うれしかった。

「私のことよく見てくれてるんですね」

 照れよりも嬉しさが勝って、私今きっと満面の笑みで彼を見つめてる。


「うん、見てるよ。ジーって」

 そう言ってそれまで少しドギマギしていた彼が視線を外さないまま迫って来て、つい雰囲気に呑まれそうになった。

「私、好きな人がいるんです!」


「そうなんだね。
どんな人?」

 体ごと私に向き直すと真剣な顔をして問いかける。


「私に興味ない人だからこの先も特に何もないんです。
でも好きで、だけどいつかは諦めないといけないから……って、あ、なんかそんな、良いキッカケみたいに思ってるわけじゃなくてですね……」

 言葉を選ぶのにも時間がかかる。
 恐る恐る顔を上げてみると彼はこの上なく優しい表情をしていた。

「大丈夫、俺待てるよ。焦らない」

「うーん……」

「俺を好きになってくれるまでは手は出さないから。
そういうのが全てじゃないでしょ?
俺が付き合おうって言ってるのだって
ただ、理由も無いけど会いたいって言って会える関係になりたいからだよ」

 彼らしい。
 私より9歳も年上だけどかなり純粋だ。純粋っていうのは女慣れしてないとかそういうことじゃなくて、人間として腐ってないって意味で。

 正直私が身を置く世界は美しいわけではない。
 世間の人々が見ている私たちは本当の私たちの姿の50%にも満たない。もちろん自分の本当の姿と全く異なるわけじゃないけれど“リアル“な部分がごく僅かだということだ。
 私は見た目は派手でも中身が地味なタイプだから周りに影響されずにここまでやってきた。私よりもはるかに長くこの世界で生きている彼がここまで純粋だとは、私も驚きだった。

「俺への返事は今はまだいいから!
少し考えてみて?」

 私の頭の上にポンッと手を置いて、ぐしゃぐしゃと撫でた彼の微笑みには大人の余裕があって
 全身に入っていた力が抜けた。

 この先リク先生の気が私に向いてくれることはないと思う。だけどリク先生と深い付き合いであるスパボのメンバーである先輩と付き合うのはやっぱり……