4月中旬、カムバックが刻一刻と近づき、練習やレコーディングに明け暮れる日々を過ごしていた。
 毎日が事務所、家、の繰り返しで春になったことさえ気づかなかったぐらい。日々の楽しみといえばいつか何かしらの音源収録でリク先生に会えるかもしれないこと。それだけを糧に毎日頑張っている。
 たまにカトク(カカオトーク)を相談のフリして送ってみようか、などと考えるもまたぶっきらぼうな返事をされてすぐ会話が終わるのが予見されるため断念する。

 あと、何か変わったことというとハル先輩と仲良しになった。
 シエン先輩は抜きで2人で会うほどだ。
 ハル先輩は寂しがりやらしく、暇さえあれば「今日暇?ご飯行かない?」って連絡くれる。彼自身も忙しいからそんなに暇なんて無いはずなのに私のこと心配してくれている。3月は中国圏での活動で、4月は映画の撮影で彼はすごく忙しくしていた。それにしてももうこの3ヶ月で10回以上は会ってるはず。
 いつもありがたい事に奢ってくれてるから私はお返しと言ってはなんだがハル先輩が作曲作業で事務所に篭っているときに顔を出して差し入れを持っていく。
 なんでこんな良くしてくれるのか不思議だけど、シエン先輩がきっと「大事な妹だからかわいがってやろうよ」とか言ってくれてんのかな、って想像しながらハル先輩の善意に甘えに甘えている。
 私も慣れたもので、今では気兼ねなく彼に電話する。
 少し前に私と彼の距離がグッと縮まる出来事があった。
 ちょうど季節が真冬から初春に変わる頃、ハル先輩がなんだか元気がないような雰囲気を醸し出していた。
 食事に行った時に違和感を感じて、その少し後に彼の作業中にスタジオにお邪魔したら彼は作曲をするわけでもなく、ただ1人で佇んでボーッとしていた。
 触れない方がいいのかなって思ってたけど気になって仕方なかったから勇気を振り絞って言った。

「ハルオッパ、無理しないでくださいね」

 先輩である彼が、私に初めて弱ってる表情を見せて
隣に座った私にもたれかかった。

「この前会った時から、元気なかったですよね」

 彼はコクッと頷いて、それ以上喋ることは無かった。

 私はその日、用事があって事務所に訪れていた。
 マネージャーからの電話で呼び出されるまで、その場を離れずに特別何かするわけでもなく黙って隣にいた。
 シーンとした中に響くのは時計の秒針と彼と私の呼吸。
 人との無言の空間は苦手なタイプな私は黙っていても(何か喋った方がいい?)(いつまでこうしてたらいいんだろう?)と見えない汗を心にかいた。
 いくら慣れたとはいえ、私が無言でも耐えれるのってシウだけだから。
 何も喋らないまま10分、15分と経って私の携帯の着信音が鳴ったとき、正直ホッとしたしようやく酸素を目一杯に吸えた気がして……どっと疲れを感じた。  
 去り際には普段のハル先輩に戻っていた。
 その日から、毎日のように連絡がくる。
 いまだにあの時何があったのかは聞いてもないし彼も言わないけど、触れないままがいいのだろう。