今世では真っ黒な髪に、背丈は百六十センチ前後、顔もフツーのフツーオブフツー。名前だけは少し変わっているぐらいの、青春真っ只中の高校生だったのに!
 異世界転移とか、ほんと勘弁して欲しい。お家に帰りたい。クレープ……。

 前世とは違う異世界であってほしいけれど……あの紋章、たしかクレパルティ大国から西の森の奥にあるエルフの紋章っぽい。よく見たら耳とか尖っているし、顔面偏差値高いわ。ううん、まだ似た世界線の可能性もある!
 SF展開を期待! パラレルワールドとかでもこの際、文句言わないから!!
 とりあえず元の世界に戻して貰えるか、放り出されるか分からないけれど、声をかけてみよう。

「あのー、私は人違いだったようなので、元の世界に戻して貰えませんか?」
「ん? ああ。もう一人居たのか。魔力が感じられなかったから気付かなかった」

 普通の人間は魔力なんてないわよ!
 深緑色の髪に、翡翠色の瞳。綺麗な顔をしているけれど、向けられる眼差しは無機質でゾッとするほど冷たい。エルフ族は人族を嫌悪している種族だったっけ。彼らは風と緑から派生した種族で、人族を野蛮で炎を飼い慣らす怪物だと認識していたような? 

 うん、元々人族に良い印象はなかった。人族の印象最悪な場所に転移するなって……早くも死亡フラグだわ。いや四大種族のところに出現じゃなかっただけマシかも?

 異世界転移は高位魔法。
 そんな大それた術式を私一人のために使うわけ……ないわよね。
 ……仮に、うん仮に前世と同じ世界だったとして、西の森フェアリーロズから歩いて七日でクレパルティ大国はあったはず。転生してすでに十六年以上経っているけれど、大国がどうなったのか……あの日、祖国は燃えてしまったけれど、生き残りがいるかもしれない。希望は薄いけれど、元の世界に戻れないのなら──。
 この世界で生きていくしかない……。クレープもっと食べていけばよかったかも。