もちろん、駄菓子だけじゃなくて文房具も『ひまわり』で買うことが多かった。中学生になると文房具にこだわりだして、かわいいメモ帳やシャーペン、筆箱なんかを買って友達を見せ合った。『ひまわり』は私にとってなくてはならない存在だ。
 そんな思い出のある『ひまわり』だけど、泉ちゃんが言うようにお客さんがたくさん押し寄せているところは想像がつかない。私がお店に行く時にはいつも一人か二人、パラパラとお客さんがいるだけだったから。何かの間違いじゃないかと、彼女に疑いの目を向けてみたが、「本当だって!」と太陽みたいに明るい反撃を受けた。

「そうなんだー。小さい文房具屋さんなのにそんなに人が押し寄せて、大変だねえ」
 
 あくまで他人事にしか考えられない私に、泉ちゃんは「はあー」と大きなため息を吐く。

「あのさ、美由。イケメンのお孫さん、気にならない? どうやら年は私たちよりも少し上ぐらいで、大人のお兄さんって感じらしい! ね、ね、気になるでしょ!? 放課後一緒に観に行こーよ」

「え、う、うん。どうしよう……」

 泉ちゃんの勢いの気圧された私は曖昧な返事をしてしまう。「ひまわり」に行くのが嫌なわけじゃない。ただ、家族に頼まれていた家の仕事(・・・・)が頭にちらついていた。
 それに、野次馬みたいに見に行くのって、迷惑じゃないのかなぁ……。

「いいじゃん、減るもんじゃないし。ちょっと覗くだけだよ。話しかけたりしないって」
 
 細かいことは気にしないタイプの泉ちゃんは、手をひらひらと振って「大丈夫!」となぜか得意そうにしていた。私は、気づいたらそんな彼女に乗せられて「じゃあ少しなら……」と頷いた。

「よし、決まりね。じゃあ今日の放課後、帰りに寄ってみよう」

「分かった」

 昨日、お母さんに頼まれた仕事、なんだったけ——と考える暇もなかった。
 少々強引な泉ちゃんによって、放課後「ひまわり」を訪ねることしか、もう頭になくなっていた。