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「ねえねえ美由、知ってる? 街角の文房具屋さん、最近行列ができてるんだって」

「文房具屋さん? それって『ひまわり』のこと?」

 (いずみ)ちゃんの高い声が今日も朝日と共に降り注ぐ。彼女とは家が近所だから、学校に行く時は大抵一緒だ。今日も電車に乗る前に鉢合わせした。高校最寄りの駅で降りると、ちょうど太陽がぱっと顔に当たって、私は両手でひさしをつくった。

「そう! 『ひまわり』、お客さんが殺到して大変そうだったよ」

「へえ。でもなんで? あそこって、老舗の文房具屋だよね。おじいちゃんの店主が一人で切り盛りしてて、いつもお客さんはまばらで……」

「それが、最近は違うの! 息子さん? いや、お孫さんがお店にいて、その人がすっごくイケメンで、しかも愛想が良いからお客さんが増えたんだって」

「はあ」

 きゃんきゃんと子犬が吠えるようにして『ひまわり』の盛況ぶりを解説してくれる泉ちゃん。私は、朝から秋の澄んだ空よりも高い彼女のテンションについていけなくなる。
 私たちの住む街角にある老舗の文房具店『ひまわり』は昔ながらの小さなお店だ。私が小学生の頃は文房具だけでなく駄菓子なんかも売っていて、学校終わりによく寄り道をしていた。当たりはずれのあるチューイングキャンディーを買うのが好きで、友達と何度も店主のおじいちゃんにキャンディーを持って行った。おじいちゃんは無愛想だったけれど、駄菓子をたくさん買い占めてしまう私たちを「小さなお客さん」と呼んで、良くしてくれた。