言えた。自分の心からの本音を。日向さんの純粋な目で見つめられると、するすると気持ちが溢れ出てしまう。本当に彼は不思議な人だった。
 私の回答を聞いた日向さんはその場でにっこりと微笑む。

「いいじゃないですか、ヴァイオリン。素敵ですね。夢があるなら、迷う必要なないです。思い切り、お母さんたちに気持ちをぶつけてみましょうよ」

 さらりととんでもないことをのたまう日向さん。思わず「ええ!?」と素っ頓狂な声をあげてしまった。

「む、無理ですよ……! ヴァイオリニストなんて、絶対になれっこないって言われちゃいます」

 自分が親や姉たちに夢を打ち明けるところを想像して、みんなに嗤われる未来が浮かんだ。

「絶対なれないって言われたら、諦めますか?」

「それは……」

 核心をつく日向さんの言葉が、私の脳髄まで突き刺さるように、深く考えさせてきた。

「諦めは、しないと思います」

 自分自身に問いかけたら、答えは単純だった。
 きっと誰になんと言われようとも、私はヴァイオリニストになりたいっていう気持ちを諦めきれない。最終的になれるかどうかはともかく、何もせずにただ言われた通りに諦めるのだけは絶対に嫌だった。
 日向さんは私から答えを聞くと、すぐに相好を崩して言った。

「それなら立ち向かいましょうよ。もし良かったら、僕がお手伝いします」

「え?」

 お手伝い?
 一体どうやって……と聞く必要もなかった。

「実は僕、近々やなせ印刷さんに行こうかと思っていたんです。父じゃなくて、僕からちょっと頼みたいことがあって。明日、一緒に行ってもらえますか」

 日向さんはにっこりと微笑んだまま、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。一体この人は何を考えているのだろう。全然読めない。でも私は、気がつけば彼の提案に頷いていた。