「柳瀬、美由さん。あれ、もしかして『やなせ印刷』のお嬢さん?」

「え? どうしてそれを——」

 びっくりして日向さんの顔をはっと見つめる。まさか、彼の口からその名前が出てくるとは思ってもみなかった。

「やっぱりそうだったんですね。いや、何度かお世話になったことがあって。と言っても、僕の父親が、なんですけど。柳瀬っていう苗字を聞いて真っ先に思い浮かんだんです。父親についてやなせ印刷さんに行った際に、時々女の子を見かけたものだから」

「はあ、なるほど。そうだったんですね」

 自分と「ひまわり」の新しい店員にそんな繋がりがあったなんて。彼が見たという女の子は、私かもしれないし、真由や沙由かもしれない。でもなんだかちょっと嬉しくてこそばゆい。彼と、すごく細い線だけど繋がってたんだ。
 ……あれ? どうして私、今嬉しいなんて思ったんだろう。

「父親が漫画家で、よくイベントで販売する書き下ろしの漫画を印刷させてもらってたんですよー。って、すみません。美由さんの相談なのに、僕のほうがたくさん喋っちゃってますね」

「だ、大丈夫です」

 へへへ、と頬を掻きながら申し訳なさそうに謝る日向さん。私は、今さらりと「美由さん」と呼ばれたことに、心臓がきゅっと飛び跳ねるのを感じた。

「それで、美由さんは今何か悩んでることはありますか? なければお悩み相談時間は終わりになっちゃいますけど」

 彼のまっすぐな瞳が私に問いかけた。なんだか吸い込まれそうだ。相談がなければ、日向さんとの時間が終わってしまう。そう思うと、何も話さずにはいられなかった。
 私は、少し間を置いてから、徐に口を開く。