実は、わたしの書類管理部への異動は少し前からあったようだったが、新井主任が何とか食い止めてくれていたようだ。
しかし、新井主任が違う支店に異動になり、蠣崎課長がその話を進めたのだった。

「異動の話は納得いきません。」
わたしがそう言うと、蠣崎課長は「人間関係でいざこざがあると、面倒だろ?」と言ってきた。
「わたしは嫌がらせを受けている側ですよ?」
「ん~、とにかくこっちとしては深澤さんを優先するしかないんだよ。」
蠣崎課長は、早く話を終わらせたがっているようにちょっとイライラし始めた。
わたしは納得いかなかったものの、何を言っても駄目なんだと悟り、それ以上何も言えなかった。

書類管理部への異動まで、あと2週間。
引き継ぎをしておくように言われた。
元々人数の足りていない部署なのに、わたしが異動のあとは蠣崎課長の知り合いを入社させることになっているらしい。
もう意味が分からなかった。

その日の帰り道。
わたしは、もうオレンジ色から薄暗くなってきた住宅街をぼんやりしながら歩いていた。
今までの頑張りはなんだったんだろう。
どんなに頑張ったって意味がなかったんだ、認めてもらえてなかったんだ。
あのやり甲斐や達成感は何だったんだろう。
ただの深澤さんの「わたしが気に食わない」それだけで簡単にわたしの今までをグシャグシャに踏み潰されてしまったのだ。
気が付けば涙が溢れ、頬を流れ続けていた。

すると、5メートル先ほどの街灯の下に何かが落ちているのが目に入った。
わたしはそっと近寄り、覗き込んだ。
それはA4サイズほどの黄色い画用紙が表紙で「わたしの居場所」と書かれた、一見舞台の台本かと思うような本だった。
わたしは、それを躊躇せずに手に取った。
真新しく、今出来上がったばかりのように綺麗だ。

わたしはそれの適当なページを開いた。