私は海が好きだ。特に、夏の初め頃の爽やかな海が好きだった。

そこで、君と出会えたから。


「今日も来てるんだね」
「……うん、芹沢も、今日来てるんだね」
「うん」


彼の名前は仁科零士くん。黒髪に、黄色い瞳をした猫のような男の子。

彼はとても背が高くてモデルさんみたいに顔が整っている。


そんな彼と平凡な私が会うのは、放課後の、学校の近くの海辺だけ。


「芹沢、この間テストの順位よくなかったよね」
「げっ……な、なんで知ってるの?」
「見たからだよ」
「仁科くんは相変わらず、一位だったね。かっこよくて頭もいいなんて、いいなぁ」
「俺は芹沢みたいに、誰にでも優しくできるのすごいと思ってるよ」
「……あはは、仁科くんにしては珍しいね。褒めてくれるんだ」


普段から無表情の彼。私は彼に恋をしている。

だから、振り向かせたい。その口角を、ちょっとでいいから持ち上げたいのだ。


「だめ?俺が褒めたら」
「ううん、嬉しいよ」


1メートルのこの距離感がもどかしくて。どうしたら、私に笑ってくれるのかな……。


「……じゃあ、俺帰るね」
「うん、またね、仁科くん」
「うん、また」

バイバイと手を振ってお別れをした。


次の日。