分かっていても、俺は今の状況から抜け出すことができないでいる。


いまや俺は国民的アイドルバンドのボーカルなんだ。

俺達の知らない所で、常に何百人もの人間が動いている。

いや、もっとかもしれない。


熱狂的なファンの女の子達は、仕事や学校を休み、寝る暇さえも惜しんで俺達の行く先へ追ってくる。


俺達がCDや写真集を出す度に、多くの音楽関係者や出版社の人間が動き出す。


俺達がテレビに出演する度に、豪華なセットが作られ、手のこんだ衣装が用意される。


俺達がライブをやる度に、莫大な数の人が、機材が、金が動く。


俺達はそんな人々の中心に立って生きている。


俺達がそんな人々の世界を回している。


だから俺一人のわがままでその人達の生活を潰す事はできないんだ。