ひたすら羊毛をニードルでチクチクする作業をしている。何度もチクチクするが、変化は何もなし。

「何も変わらない……」
「ニードルを持っていない方の手で、もっとギュッと羊毛を強く押して、そしてそのままチクチクしてみて?」とアドバイスをくれた。

 今日の叶人は自信満々で、いつもよりもたくましい雰囲気。アドバイス通りにやると、少し形になってきた。

「叶人、さっき親と何かテレパシーしてたの?」
「テレパシー?」

 チクチクしながら叶人にそう質問すると、叶人は、くしゅっと笑った。叶人は些細なことでも本当によく笑う。

「だって、この部屋に来る前、親となんかアイコンタクトして、叶人も頷いてたから」
「あれね! 陽向くんに秘密事して僕が謝った時あったでしょ?」
「うん」
「あの時、謝る前にね、陽向くんと喧嘩したみたいなことをお母さんに言ってたから、さっきは『仲良しに戻ってよかったね』って、僕の心の中にお母さんが直接話しかけてきた気がして。だから僕は頷いたんだよ」
「そうだったんだ……」
「お母さんね、陽向くんは僕のこと大好きだよってその時に言ってた。陽向くんは、僕のこと好き?」
「なんだよ急に、好きだよ!」

 叶人は、他の友達よりも一番一緒にいたい人だし、一緒にいるとなんか眠くなるぐらいに落ち着いて、優しい気持ちにもなれる。同じ歳だけど、弟みたいで何かしてあげたくなるし。

「よかった! 僕も陽向くんのことが大好きだよ!」

 俺らは一緒に、微笑んだ。
 俺は叶人が大好きだ――。

 お互いに好きだと思っていたのに、それを覆す、俺にとっては大きな事件が起きた。

***