羊毛フェルトを始めてから少し経った日。何気なくスマホのカレンダーを見ると『陽葵、誕生日』と書いてあるのが目に入った。ちょうど連休中の、五月三日が陽葵の誕生日だ。

――そっか、そういえばもうそんな時期。今作っているウサギをあげようかな? 喜んでくれるかな?

 だけど、誕生日まで後二週間じゃん。

 作り始めてから何回か、のんびり叶人と一緒に作業はした。だけどバイトの日は一切、手をつけていない。それに、ひとりの時にできる時間はあったけれど、叶人と一緒にじゃないとやる気はでなかった。ウサギ制作の進行状況は、まだ顔と身体の形だけができた感じだ。

 間に合わなさそうだ。
 どうしよっかな?

 登校中とりあえず事情を叶人に話してみた。

「じゃあさ、学校の昼休みとか一緒にやろうよ! なんか暇だし。あっ、陽向くんは人気者だし忙しいのかな?」
「いや、別に忙しくないけど」
「あっ、じゃあ今日からやる? まだ家から出たばかりだから道具持ってこれるよね?」

 返事を聞かないまま叶人は家の方向に戻っていく。もちろん俺もついていき、それぞれ自分の羊毛フェルト制作セットを取りに、家に戻った。先に準備を終え、自転車に乗って外で待っていると「お待たせ!」と明るい声の叶人も家から出てきた。叶人も自転車に乗り、再び学校に向かう。

――なんか、羊毛フェルトの話をしている時の叶人は、本当に生き生きしていて楽しそうだな。

 叶人は秘密事として羊毛フェルトをしている。それを打ち明けてくれて、本当にありがたいと思う。叶人の楽しい時間を共有できて、嬉しい。

 と言うか、これは叶人の秘密事だっけ?

「そういえば、学校の人たちには秘密事バレて大丈夫なの?」
「あ、そっか、そうなるよね……僕の羊毛フェルト制作中の世界は、陽向くんと家族以外には触れられたくはないかも……でも、陽向くんとふたりだけの世界を築ける自信はあるし、大丈夫だよ!」

 学校でふたりだけの世界?
 ちょっと分からないけれど……。

 まぁ、叶人が大丈夫そうならいいのか。