心の穴

康二は瑠美と再会してから、彼女の表情にどこか影があることに気づいていた。しかし、彼女がその影を隠すように振る舞っていたため、康二はその理由を聞くことができなかった。ある日、瑠美がふとこぼした言葉が康二の胸に引っかかった。
「最近、パチンコに行くのが日課になっちゃってね…。打ってると、いろんなことを忘れられるの。」
その言葉を聞いたとき、康二は彼女の孤独や寂しさがどれほど深いものなのかを理解した。夫を失った瑠美は、心の穴を埋めるために、パチンコという一時的な逃避に依存していたのだ。そして、康二はさらに気になる噂を耳にした。瑠美が金銭的に援助を受けている男の存在があるというのだ。康二は心配になり、直接彼女に尋ねた。「瑠美、本当に大丈夫なのか?最近、あまり元気がないように見えるし…。それに、その男のことは…」
瑠美は一瞬、驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑みながら答えた。「大丈夫よ、康二さん。ただ、たまに助けてもらってるだけ。深く考えないで。」
彼女の言葉は軽やかだったが、その微笑みはどこかぎこちなく、康二は胸が痛んだ。彼女の心の穴は深く、その孤独を埋めるために、無理をしていることは明らかだった。しかし、康二はどうすれば彼女を救えるのか、自分の無力さに苛立ちを感じ始めた。
「瑠美、俺はいつでも力になるから、何かあったら言ってくれよ」と康二は静かに言った。
瑠美は小さくうなずいたが、その瞳の奥にある寂しさは、依然として消えないままだった。瑠美との再会は、康二にとって大きな支えとなっていた。彼女の存在が、孤独な時間を癒し、心のよりどころとなっていた。そんなある日、瑠美がふと障害年金の話を持ち出した。
「康二さん、もう一度障害年金のことを考えてみてもいいんじゃない?今の状態なら、申請すれば通る可能性もあるし、将来の安心にもつながると思うわ。」
康二はその提案に少し驚いたが、42歳になり、これまでの仕事で正社員になる道がなかなか掴めない現実を考えると、瑠美の言葉は現実的に響いた。彼自身、長年にわたる精神的な負担や過労が心身に影響を与え続けていることを感じており、将来の不安は常に頭の片隅にあった。
「でも、障害年金なんて…俺がもらっていいのか、どうか…」康二は躊躇しながら言った。
瑠美は優しく頷きながら答えた。「康二さんはこれまで本当に頑張ってきたと思う。でも、自分の健康を守ることも大切よ。無理しないで、少しずつでも安心できる道を考えていってもいいんじゃない?」
康二はその言葉に背中を押された気がした。彼は主治医に相談し、障害年金の申請手続きを始めることに決めた。診断書や書類を揃えながら、これが自分にとって新たなスタートになるのではないかという期待が、少しずつ心の中に芽生えていった。瑠美の言葉が康二にとって、次のステップに進む勇気を与えた。そして、彼は自分のこれからの人生について、もう一度真剣に向き合い始めたのだった。