沈黙

被害妄想から解放されて一ヶ月が経ったある日、康二は久しぶりにデイケアに足を運んだ。そこには真子がいた。康二は、心の中にあった不安を抑えきれず、「俺、おかしくない?」と彼女に声をかけた。しかし、真子は軽く笑うだけで、それ以上の反応はなかった。その笑顔にはどこか距離を感じ、康二の問いかけは空回りしてしまった。その日を境に、真子はデイケアにまったく姿を見せなくなった。康二は、これまで以上に彼女の存在を意識し、彼女との繋がりが一層遠ざかっていくことに対する寂しさと虚しさを抱えるようになった。彼女の突然の姿消しは、康二にとって何かの「シンクロニシティ」なのかもしれないと感じさせたが、その答えは見つからないままだった。この頃から、康二は街中で真子の愛車とすれ違うことが頻繁に起こるようになった。そのたびに、過去の出来事が鮮明に甦り、彼は思い出に囚われていく。特に、かつて浩美との間で経験した不思議なシンクロニシティが再び頭をよぎる。浩美の愛車との偶然のすれ違いが、康二の心を揺さぶった過去の感情と、今起こっている真子との不思議な共鳴をつなぎ合わせているように感じられた。
「これも何かの意味があるのだろうか…?」康二は心の奥底で、またしても運命的な何かが自分を導いているのではないかと疑念を抱いた。同じような偶然が、今度は真子との間で起こるとは。彼は無意識に、過去と現在が重なり合い、また何かを伝えようとしているような感覚に包まれていた。

それでも康二には、過去の失敗を繰り返したくないという思いがあった。かつて浩美に抱いていた未練や執着が、今また真子に向けられ始めているのではないかという自己反省もあった。しかし、そのシンクロニシティが偶然であればあるほど、康二は自分の感情がまた揺り動かされていくのを感じていた。