出逢い

康二が社会復帰を断念した最大の要因は、精神障害が二級に等級が上がったことだった。この変化は彼にとって大きな意味を持ち、再び働くことへの意欲を奪った。彼は、自分の心の状態を受け入れることで、無理をせずに生きていく道を選ぶことにした。精神科デイケアに通うようになり、康二はそこでの支援を受けながら、少しずつ心の安定を取り戻していった。瑠美も彼を支えるために一緒に通院し、二人で安住の地を求める生活を築いていった。デイケアでは、他の患者たちとの交流や、心のケアに努めることで康二は少しずつ自分を理解するようになり、瑠美との関係もより深まっていった。彼は新しい生活スタイルを受け入れ、心の平穏を求めながら、日々を大切に過ごすことにした。康二がデイケアに通うようになって二週間ほど経ったある日、荻野真子という29歳の女性が康二にLINEの交換を求めてきた。真子はクリっとした大きな目が特徴で、どこかアイドルのような可愛らしい顔立ちをしていた。康二は驚きながらも嬉しさを感じた。彼女と交流することで新たな刺激を得られるかもしれないと期待が膨らんだ。真子は明るく、社交的な性格で、すぐに会話が弾んだ。彼女の存在は康二にとって、久しぶりの心の潤いとなった。LINEを通じて、日常の出来事や趣味についてやり取りするうちに、康二は少しずつ心を開いていく。真子の明るさは彼の生活に新たな希望をもたらし、デイケアでの時間がより楽しいものになった。康二は彼女との関係がどのように発展するのか、興味を抱き始めていた。康二は毎日真子の顔を見るのが楽しみになり、彼女との交流を心待ちにしていた。そんな折、NHKの「失敗談」のオーディションに応募することにした。自分の経験を話すことで、少しでも社会に貢献できればと思ったのだ。オーディション当日、康二は緊張しながら面談を受けた。しかし、面談が進むにつれて、自分の過去の経験や統合失調症について語るうちに、スタッフの表情が曇っていくのを感じた。結局、康二は「この内容では番組が暗くなりすぎる」と却下されてしまった。その結果はショックだったが、康二はすぐに気を取り直した。彼の人生にはまだ多くの可能性があり、真子との関係を大切にしながら、別の道を探ることを決意した。彼は再び自分の足元を見つめ、少しずつでも前に進む覚悟を固めていた。