「お前のせいじゃないだろ。風邪くらい誰だって引く。それに,お前がそんな風に思ってるって知ったら」
「知ったら?」
「恥ずかしがって,怒って,顔真っ赤にして。最後には……泣くんじゃないか?」
ちっちゃい背丈と身体で,感情豊かな後輩は。
きっと憶さず飛びかかっていく。
「好きなのか,南が」
「ん~? どうだろうねえ。秋には内緒」
なら,誰に。
考えて,態度の急変した後輩が浮かぶ。
「お前……」
南が不憫で,なんとか鼻の上を押さえるにとどめた。
「かわいいよねえ,翠ちゃん。早く,はやく僕のこと,好きになってくれないかなぁ」
それはとっくに大丈夫そうに見えるが?
「秋ー」
「なんだ」
「とっちゃだめだよ」
そんなことか。
真っ直ぐ,透き通った目で俺を見つめる。
そんなことするわけがない。
だいたい,そんな目で見たことなんてない。
光はぱくりと美味しそうに最後の一口を頬張っている。