「またね」

「はい!」



その前にかけられた言葉へ,私は力一杯返事をした。

秋先輩もそんな私に会釈だけくれる。

はも先輩につられて手を振りながら,秋先輩には会釈を返した。

そんな自分を自覚して,友達っぽいと振っていた右手を握って微笑む。

そして私は,帰りに,はも先輩にリボン見に行きませんかと誘おうと決めた。

何度も,その言葉を反芻する。

放課後お店に行かないかと,ただそれだけなのに,なぜかすごく緊張していた。

授業に集中しきれないまま迎えた放課後に,実際に呼びに行こうと下駄箱で待ってみる。

見逃すことなく,はも先輩はやって来た。

ほっとするのもつかの間,そのそばには誰か女の子がいる。

テンション高く話しかけられながら,もうすぐそこまではも先輩が来ていた。

どうしよう,明日の方がいいかな。

2人で帰るのかもしれないし……



「ねっいいでしょ光くん!」



はも先輩が女子の先輩にの肩をタッチされる様子を見て,どうしてか胸がチクリと痛む。

そしてはっきりと相手の顔が見えて,私は声を少しだけ驚いた。

あの人,朝の。

最初に言葉を向けていた,ひと。

だけどはも先輩の知り合いならきっと,あの時少し言葉が強かっただけで。

そして,それだけたまたま自分の姿が見るに耐えなかっただけなのかもしれないと思う。

私は迷ったけれど,その可愛い女の人の笑い声や様子をみて,はも先輩へと声をかけるのは諦めた。

あんな人が隣にいるのに,はも先輩の視界に私が映るなんて……

恥ずかしくて,怖くて,私は見つかるまいと途中までは走って帰った。

その分,じっくりとリボンを1人で選んで。

翌朝は,仕上げのためにいつもより遅く家を出た。