「ウサギの子,もし本当に貰えるなら,ウサギの子にしてください」

「……どうして?」

「何だか,先輩っぽい気がしたので」



どうせなら,先輩に貰ったんだと思い出せる子がいい。

くすくすと,初めて思い切り笑う。

こっちに来てこんなにも笑ったのは初めてだ。

上手くやることばかりに囚われて,嬉しいと言う感情すら,忘れていた。



「そうしてれば可愛いじゃん」

「え?」

「んーん」



伸びをして,先輩が立ち上がる。

先輩を見上げた奥に,また沢山の本を見つけて。

私は先輩へと声をかけた。



「そういえば先輩。この教室って」

「ああ。ここね,図書室で読まれにくくなった本が全部ここに来てるの。古くたって,その価値は変わらないでしょ? 時々物好きな人が来れるようにしたらしいんだけど」

ー今は整頓もされず,僕の隠れ家になっちゃってるね。


そうなんだ,と私は納得する。



「先輩」

「なに?」

「もし,良ければなんですけど」




こんなことを,誰かに言う日が来るなんて思わなかった。

けれど少しくらい,提案してみるくらいは,ゆるされるんじゃないかな。



「うん」