「本多さんも、児童書がお好きなんですか」

「好きですよ。児童書はたしかに易しい言葉選びが多いかもしれないですけど、子どもだましなんて一つもないですから」


大人が読んだって、いつ読んだって、ずっとおもしろいです。


「本は、全部本気で、全部真剣で、全部眩しいですからね」

「眩しい……」


そうだ。まぶしい。


きれいで、少し幼いくらいに清らかで、もどかしくて、眩しい。そういうところが、わたしが児童文学を好きな理由。


「丁寧に選ばれた言葉はね、どれも等しくおもしろいですよね」


本多さんの伏したまつ毛が、窓から差し込む夕日に淡く染まっている。その、うつくしいオレンジ色を、なんて眩しいんだろうと思った。


「……はい」


ぎゅうと、噛み締めるみたいに頷いた。嬉しくて、胸がいっぱいで、泣きたい気分だった。


「今日はありがとうございました。また来ます」


本を返しにくる意味だけでなく言って、頭を下げる。


「こちらこそありがとうございました。今後とも、どうぞお気軽にいらしてください」


曲がり角の向こう、足元の小さな看板までわたしを送ってくれた本多さんは、高い位置にある腰を深く折って見送ってくれた。


あの夕暮れどきから、わたしは、この場所とこの人を推している。