「あの、わたし、こちらにお邪魔するのが初めてなので教えていただきたいんですが、大人でもお借りできるんですか?」

「もちろんです。二週間、二冊まで無料で借りられます」


ええーと、とカウンターに振り向いた本多さんが、長い腕を伸ばして角に立てかけてある紙を取った。さらさらの黒髪が揺れる。


「少々お時間いただけますか? 詳しくご説明します」

「お願いします」


頷いた途端、チラシを差し出され、椅子を引かれ、小机に向かい合って座っていた。


この机には、最初は一脚しか椅子がなかった。

それを、本多さんがこれまた長い腕をひょいと伸ばして隣から拝借して二脚にしていたから、多分、ほんとうは文庫に立ち寄った人が座って読書をする用の机なんだろう。


説明によれば、本屋兼個人文庫の『ちいさなまがりかど』は、少しの年会費と、ときたまの寄付、主にご厚意で成り立っている。


寄付は、子どもにもできてしまうくらい、ごくごく少額から。


「飲みもののおつかい」、二百円。

「はっぱのお金」、五百円。

「りょうほうの手ぶくろ」、千円(五百円玉二枚も可)。


……といった具合で、いくつかのコースに分かれている。


「あなたの本棚」は他のコースよりもお高い金額が自由に決められる。


短く切られた爪が文字列をなぞるのを追いかけながら、寄付の名前が好きだな、とぼんやり思った。