蔵書は古めかしいものから比較的新しいものまで、さまざまあった。


基本的に日本十進分類法に基づいて並べられているけれど、天井高くまで伸びる本棚は、棚の位置で大まかに三つに分けられる。


足元には絵本、膝くらいの高さに児童書と、子どもでも手に取りやすいようになっている。文庫の特性もあってか、全体的に絵本や児童書が多い。

肩くらいの高さからは、小説や詩や短歌など、ジャンルが雑多になる。隅に薄い楽譜が大量にあるので、どなたかが楽器を演奏していたのかも。


足元をぐいぐいくぐり抜ける子どもたちを押さないように注意しながら端に避け、子どもたち全員が選び終わるのを待って、児童書の棚から青い背表紙を抜いた。


「こんにちは。そちら、お好きなんですか」


穏やかな声に振り返る。


先ほどまで豊かに物語を彩っていた、きれいな声のお兄さん──名札によれば本多さん、が後ろに立っていた。


「こんにちは。これは、初めて自分のお小遣いで買った本なんです」

「うわあ、いいなあ!」


にこりと笑った目が、伏し目がちに細くなる。子どもみたいに弾んだ声とは反対に、大人っぽく口を閉じる笑い方が上品だった。


「ありがとうございます。だから、なんだか懐かしくなって」

「思い出の本なんですね。お借りになりますか?」


借りる。

文庫なんだからもちろん借りられるんだろうけれども、居心地がいい場所だということ以外、今だにシステムもよく分からないままである。


思い切って聞いてしまうことにした。