殺気

再会してから、1ヶ月が過ぎて阿蘇へドライブに出かけた。楽しいはずのドライブの筈が、節雄はオドオドとしてハンドルを握る。また、いつ瑠美の癇癪が起きるかわからない。遠出は乗り気ではなかった。顔を見ると会話によっては、あからみてみえたりする。表情に殺気がみなぎっている。行きはなんとか何事もなくたどり着く。時折、瑠美は独り言を呟く。それは、パチンコ屋の名前が飛んでくる。お父さんはどうやら、パチンコバカで借金を負い、瑠美を満足に育てられなかったみたいだ。節雄が、パチンコに入ったのが命取りになる。店内にはいり30分ほど別行動で台を打つ。顔を合わせると瑠美が尋ねてきた。
瑠美「いくら打った」節雄は一万と軽く返答すると、瑠美の表情が、みるみると赤みを増してくる。やばぁ、次の瞬間。瑠美の手からパチンコの玉が空中に飛んだ。瑠美にとってお金は大事なのだ。罵声がとび、千円の重みを説教してくる。それも、大勢の客の前だ、節雄は、たまったものではない。なんのためにパチンコしてるのか?一万なんて、ぶっ飛ぶのは当たりまえだろ。その場を和ませるのに、駐車場で二時間、説教をくらい瑠美は落ち着きを取り戻した。その間。節雄は黙って聴いていた。瑠美は聞く耳はまったくもたない。駐車場での説教が終わり、やっとのことで車に乗り込んだ二人。しかし、エンジンをかけると同時に瑠美の罵声が再び飛び出した。
「節雄、あんた本当に分かってるの?一万円なんて大金をあんなくだらないことで使うなんて信じられない!」瑠美の声が車内に響き渡る。節雄は深いため息をつき、運転席でハンドルを握りしめた。「分かったよ、瑠美。でも、あれは俺の唯一の楽しみなんだ。それに、勝てば大金が手に入るかもしれないじゃないか。」
しかし、瑠美の怒りは収まらなかった。「そんな夢物語にお金を使うなんて、バカげてるわ!私たちにはもっと大事なことがあるのに、どうして分からないの?あんたのせいで、私たちの未来が危うくなってるんだよ!」
節雄は何も言い返せず、黙って車を発進させた。彼は瑠美の怒りが収まるまでじっと耐えるしかなかった。道中も瑠美の罵声が途切れることはなく、節雄の心には深い傷が刻まれていくのを感じた。家に着くと、瑠美は車から降りるなり、家の中に飛び込んだ。節雄はその後を追うようにゆっくりと車を降りた。玄関に足を踏み入れると、瑠美はリビングで怒りのままに物を片付けていた。
「もう、いい加減にしてよ、節雄。これ以上、私たちの生活をめちゃくちゃにしないで。」瑠美の声は涙混じりだった。しかし節雄には意味不明の癇癪。たかが一万でなんで、こうも責められるのか、挙げ句の果てにまだ付き合ったばかりなのに。節雄は何とか彼女を落ち着かせようと、近づいて腕を伸ばした。「ごめん、瑠美。本当にごめん。これからはもっと気をつけるよ。」
瑠美はしばらく節雄の目を見つめていたが、やがて深いため息をつき、少しだけ肩の力を抜いた。「お願いだから、本当に気をつけてね。私たちにはまだ希望があるんだから。」
その夜、二人は少しずつ言葉を交わし、なんとか和解の道を見つけ出した。しかし、節雄の胸には、瑠美の言葉が深く刺さる。