『陽だまり』は全席禁煙で、テーブル席とカウンター席合わせて40席ほど。
 窓を大きく取っているため、店内はとても明るい。
 椅子やテーブルは木製。
 木製の椅子の座面には柔らかいクッションが敷かれていて、壁際にはソファ席もある。

 トイレは清潔を保つため、一時間に一度スタッフがチェックするようにしている。
 私の提案でトイレに爽やかなフルーツの香りがする芳香を置くようになったんだけど、一人の女性客がアンケート用紙にそれを書いてくれて、とても嬉しかった。

 ダスターを片付けて、カウンター周りの備品を補充し、綺麗に整頓する。
 それからカウンターに戻り、今日のメニューをチェックして、表に出す店の看板にカラフルなチョークで今日のメニューを書き込む。

 Aセットはカレー、Bセットはナポリタン、Cセットはサンドイッチ。
 店長は丸っこい私の字が気に入ったみたいで、働き出してからは私が店の看板を書くようになった。

 空いたスペースもイラストか文字でなるべく埋めて欲しいと言われている。
 今日は何を描こうかな。
 そうだな、暑いし、夏の定番の向日葵にしよう。
 黄色とオレンジと緑のチョークを駆使して二本の向日葵を描いた私は、グラスを磨いている店長の元へ行った。

「店長、看板チェックお願いします」
「うん、いいね。駆、モップ掛け終わった?」
「おう、ばっちり」
 駆先輩が古里先輩と一緒にカウンターの中に入ってきた。

「じゃあミーティング始めようか」
 自然と整列した皆を見回して、店長がそう言った。



 夕方になってバイトが終わった。
 私服に戻って休憩室に行くと、珍しい光景が目の前に広がっていた。
 休憩室のテーブルに突っ伏して、古里先輩が寝ていたのだ。

 ……ね、寝てる?
 私は緊張しつつ、ゆっくりと古里先輩に近づいた。

 古里先輩は両腕を重ね、横向きに伏せていた。
 黒縁の眼鏡が下にずれている。

 紺色を基調とするシャツが、呼吸に合わせてわずかに上下している。
 薄く開き、静かに寝息を吐き出す薄紅色の唇。
 綺麗なラインを描いた頬。
 思わず触れたくなるような、柔らかそうな黒髪。
 蛍光灯の光を浴びて、髪の一本一本が輝いて見える。

 癖っ毛ひとつ見当たらない髪を羨ましく思う。
 地毛が癖の強い茶髪の私は、まっすぐな髪に憧れていた。
 今日だって、自己主張の激しい茶髪をポニーテイルにまとめるのにどれだけ苦労したことか。

 ……古里先輩をこんなにじっくり眺めるのは初めてだ。

 彼はふとした瞬間に目が合うと口元を緩め、笑いかけてくれるから、対処に困ってしまって、胸がざわざわ騒いで、落ち着かなくて――結局逃げるように目を逸らしてばかりいたけれど、実は酷くもったいないことをしていたかもしれない。

 ……って、あんまりじろじろ見るのは失礼だよね。
 すっと息を吸い、思い切って声をかける。