(いつか、私もこんな小説を書いてみたいなぁ……)

誰かを自分の小説で笑顔にしたい。いつしかそんな夢を抱くようになっていた。そんなある日のことである。

「すごい!こんな人がいるんだ!」

父が読んでいた新聞を目にした時、結芽は驚いた。文芸部に所属する中学生が書いた小説が大賞を受賞し、小説家デビューしたという記事があったのだ。

「文芸部に入ったら、私も小説家になれるのかな」

結芽は必ず中学校では文芸部に入部すると決め、その日を楽しみにしていた。そして中学校に入学するとすぐに文芸部に入部し、執筆に励んだ。

しかし現実は甘くはない。結芽の描いていた理想はあっという間に崩れ去った。結芽は「小説の才能がない」と部員たちから言われ続け、両親からも小説執筆にいい顔をされなかった。

(私は小説を読むのも書くのも好きなだけなのに……。才能がなければ書いちゃいけないの?)

絶望、悲しみ、悔しさ、怒り、様々な感情が渦巻いた。そしてその感情は結芽の薄い氷のような心にのし掛かり、限界を迎えた氷は大きく音を立てて割れた。