気がついたら、私は寝ていた。
鏡を見ると、涙を流した形跡が見られる。
昨日、あの後、寝たんだっけ…?
「明寿咲‼︎ 今日、出て行くって言ったよね⁉︎」
「お母さん…そんな焦らなくていいさ、明寿咲は今日中に出て行くんだから」
「そうだけど…」
お父さんになだめられ、お母さんはグッと拳を握りしめた後、
「お母さんが笑顔でいられる内にでて行った方がいいよ…っ!」
そう告げられた。
私は慌ててキャリーバッグ×2と重くて大きいバッグを背負い、ポーチを首からさげ、帽子をかぶる。
「さよなら、お母さん、お父さん」
実の親に見せる、せいいっぱいの、最後の笑顔だった。
「じゃあな、明寿咲」
「明寿咲…さようなら」
お父さんは苦しまぎれのような一言で。
お母さんは、なんとか『さようなら』を言えたみたいだった。
2人の姿が見えなくなるくらいまで歩き、私は足をとめた。
そして、振り返る。
「さようなら、お母さん、お父さん…永遠に。もうあなたたちと2度と会うことはないでしょう…だけど幸せだった、ありがとう」
親の前で言うことができなかったことを、私はゆっくりと告げた。
そして、教えてもらった道のりに進んでいくと、石橋が見えた。
「ここで私が落ちても__」
そう言って、下を見下ろす。
力強く流れていく水。迫力のある川。
まるで、芯がまっすぐしていて、自分の信じた道を歩く。
私にはないことばかりだ。
って、何川と自分を比べてるんだ。
人間じゃなくても、私に勝てるなんて__私はすごくないけど、自分ってどんなに無気力なのか、よく思い知らされて…、見せつけられてしまった気がした。
「ここで私が死んでも__」
また壊れた笑みが浮かんでくる。
「誰も悲しまないだろうな」
お母さん、お父さんの顔が頭の中に蘇る。
あ、唯一悲しんでくれるかもしれない人、千紗は…どうかな。
でも別に千紗だって元気で明るいし、ツッコミ上手だし。
私といなくたって、すぐに友達ができるだろうな。
「はぁ…死にたい」
新しい家に行く元気がないよ。
だけど、心配かけるわけにはいかないし…。
でも…。
揺れる心。