「明寿咲ぁ〜?引き取り手が見つかったよ〜♪」
お母さんが上機嫌に私の部屋に入ってきたのは、それから3日後のこと。
本当に捨てられるんだ。
そう思うと、現実を受け入れずにこの言葉を待っていたのだと実感する。
だって、この3日間__どう過ごしていたのか、思い出せない。記憶にないから。
「そうなんだ」
私はお母さんの目を見ずに言うけれど、そんなことなんて気にせず、
「うん〜♪」
とニコニコ笑顔で言う。
けれど、次の瞬間、表情が一変した。
「あと2日間で、ここを出て行きなさい。荷物は?まとめたの?出て行くのは、今でもいいんだよ」
「まとめた。から、あと1日だけここにいさせて。これが、娘からの最後のお願いだから」
お母さんはムッとした顔になった__けれど、すぐにふにゃっとした笑顔に戻る。
「まぁ、最後のお願いだし〜?いいでしょう‼︎ 夜ご飯は何食べたい?」
とりつくろった笑顔。
でも、あのときの笑顔に似ている__
『明寿咲、今日は何食べたい?お母さん、何でも作っちゃうよ!』
『えっ、ホント⁉︎ ありがとうっ、お母さん大好き‼︎ 明寿咲はね〜、カップケーキ食べたい‼︎』
『ええ〜?カップケーキ〜?それ、お菓子じゃ〜ん。まぁいいか、作ってあげる!それ以外は?』
あのあと、私は何を答えたっけ。
「…カップケーキ」
気がついたら、ギュッと拳を握りしめて、うつむきながら言っていた。
「わかった〜」
お母さんは偽の笑顔で告げた。
そんな様子を、何事もなかったようにお父さんが私がお小遣いを貯めて買ったマグカップにコーヒーをいれて、微笑みながら見つめていた。
…ううん、何事もなかったんじゃない。だって、これから捨てられるんだよ?笑えるね。
私は、ここ数日間で__狂ってしまったのかもしれない。