「ちょっ、ちょっと明寿咲!私もついて行く!」
私は急いで新聞部室へ向かった。
バンッ
大きな音を立て、ドアを開けたのは私だ。
「うわっ、先生…じゃ、ない。…ふんっ、オマエ、前に俺たちに注意してきたヤツじゃん。今度はお友達も一緒みたいだな。何の用?」
「兄妹ゲンカに巻き込まないでください」
「は?オマエには関係ねぇだろ。翠が困ればいい。それだけだ」
なんて最低なお兄ちゃんだ…っ‼︎
あとから追いかけてきた千紗は息をきらしながら、うろたえている。
「翠ちゃんは…‼︎」
「なぁ、これ以上俺に文句言うつもり?どうなるか、わかってるよな…?」
「そうやって脅したって…」
そう言った瞬間、翠ちゃんのお兄ちゃんは机をけった。
「こうなるぞ?」
私がゴクっと息をのんだとき…。
「またアンタかよ」
「君…李月くんだね」
翠ちゃんのお兄ちゃんの目がギラリと光る。
「そうだけど。つまんねぇ兄妹ゲンカに俺たちを巻き込むなよ。翠がどれだけお前を想ってるか…知らねえくせに全校を使いやがって。ちゃんと話し合えば解決する。俺と、明寿咲みたいに」
「2人もケンカしたことあるんだね。てっきり、すごく仲良いのかと思ってた」
「そりゃあな…今は」
李月は私を引き寄せた後、バックハグをして頬にキスをする。
不良モードの李月にこんなことされて、ドキドキが止まらない。
「へぇ。まあ、全校を使ったことと翠にはあやまるよ。だけど、俺は2人を許したわけじゃない」
「それは知ってる。じゃあ俺たちはもう用済みってわけだな」
李月は私をフワッと持ち上げ、お姫様抱っこをし、教室へ戻ろうとする。
気がつくと、千紗がいない。
「り…李月っ!ありがとうだけど、おろしてっ」
「嬉しくねぇのかよ」
耳元でささやかれ、赤面する。
「いやいやっ…嬉しいけど…っ!」
「す・な・お」
そう言って、ほっぺをつん、とつつく。
私は真っ赤になった顔を隠すように教室へ逃げ帰った。
次の日、教室は昨日のことがウソのようにいつも通りだった。変わったことといえば、元翠ちゃんの取り巻きたちと、翠ちゃんが向い合わせに立っていることだ。
「おはよう、明寿咲。アンタを待ってたの」
「お、おはよう…?」
「じゃあ、改めて。もう私に従うとかじゃなくて、友達になってほしい」
真っ直ぐ元取り巻きの人たちを見つめる、翠ちゃん。
「あたしも…翠ちゃんに従うとかじゃなくて、友達になりたいって思ってた」
「よろしく、翠ちゃん」
そう言って平和に和解した翠ちゃんと取り巻き…翠ちゃんの友達。
微笑ましく見ていると、千紗がやってきた。
ニッ、と笑顔でピースサインをつきだす千紗。
放課後、今度は私が翠ちゃんに呼びとめられた。
「…写真撮ろ。明寿咲のおかげで仲良くなれたから」
スマホは持ってきちゃいけないなんて言ってられない。
私も持ってるし。
「いいよ。じゃあ、千紗と4人みんな呼んじゃうね!」
みんなに連絡をすると、10分もしないうちに全員そろった。
「和解したんだな」
時尾留がコソッと耳うちする。
「うんっ!」
「いくよ?撮るよ?せーのっ、はい、チーズ‼︎」
放課後の教室のその写真に刻まれた私の笑顔は、今までで1番輝いていた。
明日は、明日にならないとわからない。
だから、私はこの4人と。
ずっとずっと、いつまでも、支えてもらって、支えて人生を歩んでいくんだ。