翌日。
また千紗に玄関でまちぶせされていた私は、身構える。
「おはよう。今度は何?」
「おはようっ…っていうかさぁ!明寿咲はのんびり屋さんだなぁ…」
千紗はあきれて黒目をグルリと一周させる。
「鬼塚さんとはどうなの?昨日、話しかけたいとか言ってたけど。さすがに…」
「うん。ちょっと和解したよ」
「ふーん。やっぱり和解したんだ…?ん?わ・か・い⁉︎ 和解〜⁉︎」
オーバーなリアクションをした千紗の肩に、ポン、と手をのせる。
「千紗もできるよ、和解」
「いやいやいや、いやいや〜ッ!結構です!固くお断りいたします!」
千紗はクルリと背を向け、バッとかけだす。
「ま、待ってよ、千紗〜っ!」
私も慌てて靴をぬぎ、上履きに履き替える。
そして、廊下をダッシュする。
ドンッ
「あ、ごめんなさ…翠、ちゃん…?」
教室前の廊下で、翠ちゃんにぶつかってしまった‼︎
でも、何か違和感。
「ご、ごめん‼︎ ホントにゴメンっ」
鼻で笑われるかと思った。
顔をあげると、想像以上に苦しそうに、悲しそうに私を見ていた。
「本当にごめんっ…」
「そんなあやまんなくていいから。私も必死に逃げてたところだし」
「逃げ、てた…?」
何に?
「たいしたことじゃないし、明寿咲には関係ない。だから、気にしないで。ほら、教室に行きたいんじゃないの?」
そうだ‼︎ 今日の翠ちゃんの周りに、取り巻きたちがいない!
「そうだけど…翠ちゃんに何があったか…心配で…」
「関係ないよね?口はさまないで」
冷たい目で見られ、私は何も言えなくなってしまった。
「おはよう、ございます…」
しずんだ気分で教室に入ると、心配そうに駆け寄ってきたのは千紗…ではなくあまり話したことのないクラスメイトたち、数名。
「どうしたの?大丈夫?顔色悪いよ?」
「もしかして、翠ちゃんに何かされた?」
「あたしたち、もう翠ちゃんに従うのやめたの」
なんだか、心配してくれているのに、恐怖を感じた。
昨日まで…翠ちゃんと仲良くしてたよね?
「何も、ないよ」
私がそう言うと、ひとりが安堵のため息をもらした。
「そっかぁ。それならよかった。すごく嫌がらせされてたみたいだから」
「そうそう〜!」
愛想笑いで私はその数人たちのグループからぬけだした。
「千紗、このなんていうの…状況、何?」
「そうなんだよね。裏新聞部の情報で、鬼塚さんから離れるように指示が出たの」
「な、なにそれ…誰から?」
す、翠ちゃんが…いきなり仲間はずれ、ってことだよね…⁉︎
「考えたくないんだけど…たぶん、鬼塚さんのお兄ちゃん、かな」
「そっか。裏新聞部と新聞部の部長だもんね」
私はそう言いながらも、信じられずにいた。
「昨日、2人が大ゲンカしたみたいなんだよ。それで、鬼塚さんのお兄ちゃんが新聞を発行。だから、全校から仲間はずれ、ってこと」
「そんな…兄妹ゲンカに全校を巻き込むなんて…」
「ね!ホント、ホント。こっちは迷惑だよ〜。鬼塚さんの取り巻きたちは喜んでるみたいだけど」
その言葉に、私はダッとかけ出した。