何週間かして、私と4人は全校に正式の同居人として認められた…はず。
「誰よ、同居人って最初に騒ぎ立てたのは!」
そんな言葉が廊下から響いてきて、
「私は諦めないからっ。たとえ、あの子が同居人だとしても!」
と賛成する声も聞こえた。
鬼塚さんは気まずそうなそぶりをいっさいみせることなく、自称・クラスのリーダーを続けている。
「翠が最初に広めたってウワサ、本当?」
「お兄ちゃんもなんか関係してるんだってね、翠がお兄ちゃんを従わせたとか」
「えー、なにそれこっわ!」
クラスメイトのヒソヒソ声。
チラッと鬼塚さんを見ると、やっぱり声が聞こえていたのか、ピクッと眉が動いた。
その声に反応する鬼塚さんの取り巻きたち。
「翠ちゃんって…」
「黙って‼︎」
取り巻きのひとりが何かを話し出そうとして、鬼塚さんがするどく叫ぶ。
「私は、私は…お兄ちゃんを利用なんかしてない」
鬼塚さんらしくない、目を見開いて、なにも見えていないかのように告げた。
「翠、ちゃん…?」
「あ…ううん。なんでもないよ」
どうしたんだろう、鬼塚さんの様子がおかしい。
でも別にどうだっていい。
私たちの同居のことを広めた犯人だし、苦しめばいい。
私はそう思って、視線を鬼塚さんから外した。
「あー、いい気持ち」
休み時間、千紗が教室の窓を全開にして、髪を風になびかせてる。
「そうかな」
そんな千紗とは違って、私は持っていたシャープペンをカチカチ鳴らす。
「え、何?なんか悩み事?」
「悩み事〜?っていうかなんていうか…」
「どうしたのよ、結構深刻そうな顔してるけど」
私、そんな深刻そうな顔してるんだ...。
「鬼塚さんが、ちょっとかわいそうに思えてきちゃった」
「…へぇっ⁉︎ ちょっと明寿咲、マジ⁉︎」
「うん」
千紗は私の言葉に目を見開いて絶句している。 「優しすぎでしょ…私、鬼塚さんのこと、大っ嫌いなんだよね。でも…明寿咲にとっては…?」
千紗は信じられないのか、ブツブツと言っている。
「あとで私、話しかけてみる!」
「え、明寿咲本気⁉︎」
「うん、本気」
千紗は白目をむいちゃってるけど、私は本気。
放課後、鬼塚さんの取り巻きたちが帰って行って、鬼塚さんも帰ろうとしたところを、私が呼びとめた。
「何?私に文句つけにきたの?」
にらみつけられ、ひるみそうになる。
「ううん。鬼塚さん、傷ついてなかったかな、って思って」
「はあ?アンタ何いい子ぶってんのよ。誰も見てないんだから、そんないい子ぶらなくてもいいのに」
「鬼塚さんが…翠ちゃんがお兄ちゃんを大切にしてる気持ち、すごく伝わった。私も、4人が大切だから」
話がかみあっていないけど、私の伝えたいことが伝わるといいな。
「勝手に名前で呼ばないで‼︎ しかも、私のお兄ちゃんを4人と比べないでよ。そんなこと言ったら誰も4人に敵わない。4人は学園の王子様とか呼ばれてるけど、きっとお姫様になれるのはアンタよ。それが悔しかったの‼︎ なんとしてでも邪魔しようと思った。同居のウワサを広めれば、アンタは全校から嫌われて、批判されると思ったのに‼︎ なんで私が…⁉︎ アンタは恵まれた人なんだよ。だからだよ。そんないい子ぶれるのは。私の前でもいい子ぶって、何がしたいの⁉︎ 私、アンタのこと嫌いなんだけど‼︎」
鬼塚さん…ううん、勝手に私が呼び始めたけど、翠ちゃんの心のモヤモヤが全部吐き出された気がした。
「私だって翠ちゃんのこと嫌いだよ?大っ嫌いだよ?同居を広めた犯人だし、そもそも私は恵まれてない。親から捨てられて、拾われた先があの4人の家庭だったっていう偶然。だから、翠ちゃんの前でいい子ぶってるつもりはない。むしろ、態度悪いと思うんだけど?だけど…お兄ちゃんを想う翠ちゃんの気持ちも本物。私を嫌いと思う気持ちも本物かな?ふふっ」
意地悪く笑ってみせると、翠ちゃんも腕を組み直す。
「そうかも。アンタのこと…」
「明寿咲なんだけど」
サラッと口をはさむと、
「あ、明寿咲…ね。わかった。私、明寿咲のこと嫌いだから」
「わざわざ言い直さなくてもよくない?」
「もう、アンタ…明寿咲何よ。調子狂うじゃない」
ニッコリ微笑み合う私たち__だけどお互い目が笑っていない。
バチバチの…まさにライバル、という感じ。
私は翠ちゃんにクルリと背を向け、帰り道を急いだ。