月曜日。
日曜日はゆっくりして、学校へ行くのが辛い。
眠いし、朝が早いし…。
でも、学校へ行ったら、そんなこと悩みの種でもなんでもないことが判明した。
眠い目をこすりながら登校すると、千紗が下駄箱で待ち構えていた。
「おはよう、千紗…」
「明寿咲っ‼︎ あっ、おはよう。大変なんだよ〜‼︎」
なんだろうとマイペースな気分で考えていると、
「鬼塚さんが、全校に広めたの‼︎」
「何を〜?…ん?えっ、鬼塚さん⁉︎」
千紗は声のトーンを落として、
「学園の王子様と同居してるということを」
「はあ⁉︎」
思わず大きな声をあげてしまった私。
「学校に来るまで、チラチラ見たりされなかった?」
「眠かったから…」
「すっごくピンチだよ〜っ!」
なぜだか千紗は楽しそう。
「だって、きっと4人が守ってくれるもんっ」
いやいやいや⁉︎ その自信はどこから出てくるんだい⁉︎
「そんなことないって‼︎ 今はホントにホント、ピンチなんだから!」
「そんなことないって、何?」
ギン、とつきささるような視線を感じて、おそるおそるふりかえってみると。
「明寿咲は素直に俺に守られていればいいものの。だけど明寿咲は何も考えなくていい。俺が勝手に守るから」
「時尾留…!」
「俺のこと、なめてた?一応、明寿咲より先輩だし、男なんだ。もめごとくらいは俺が守ってやれるだろ」
なんか今日の時尾留、いつもの時尾留じゃない…!
「じゃあ」
時尾留はサッと靴を履き替え、廊下を歩いていく。
その背中が、なんだかたのもしかった。
「わーっ!やっぱり守ってくれた!」
「でも、学年も組も違うでしょ…?」
「だったら、同じ学年で同じ組はどう?」
千紗がキラッキラの瞳で見つめてくるから、私はあははと苦笑い。
「ウワサをすれば、ほら!さすが、ウワサの4兄弟だわっ‼︎」
そういう意味ではないんじゃないか…?
と心の中でツッコミをいれ、千紗の視線の先を見ると。
不機嫌な、李月だあぁっ‼︎
制服を着崩して腕をくみ、
「時尾留め、アイツ、調子に乗りやがって…1番明寿咲を守れるのは、この俺だろうが…」
ボキボキと指を鳴らす李月。
そして李月は私だけに聞こえるように、
「俺はどんなときも明寿咲を想う気持ちは変わらない。めんどくさいことは気にすんな、さっさと僕__この李月様に守られればいい」
そうささやく。
「ほら、行くぞ」
腕をひかれて、カバンをダルそうに持つ李月は、不良そのもの。
「李月、こういうことが李月のファンに知られたらどうするの?」
「別に知られたっていい。俺が好きなのは、明寿咲だから」
「もう、からかわないでよね…!」
その後ろを、千紗がキャーキャー言いながらついてくる。
「おはよう、李月くん…は⁉︎ なんでアンタと…?」
「おはよう、鬼塚さん」
満面の笑みを鬼塚さんにあびせると、
「てっきり、みんなに嫉妬されすぎて来ないかと思っちゃった。来れてよかったね」
鬼塚さんも負けじと笑顔で返す。
「そんなことなかったな。それ、鬼塚さんの勘違いだったんじゃない?」
「確かに、勘違いだといいけど。これからが怖いもんね。気をつけて」
李月はつまらなそうに机にひじをつき、
「翠(すい)も、これからどうなるかわからないから、注意しておいたほうがいいんじゃない」
「ヤダ〜、李月くんったら。私の名前、覚えてくれてたの?鬼塚翠。綺麗な名前でしょ?」
「名前だけだよね」
千紗がボソッとつぶやく。
それが聞こえていたのか、李月に背中をむけて千紗をキッとにらむ。
朝から大変だよ〜…。
昼休み、理科室へ先生から頼まれた資料を取りに行くと、
「そこにいるのは羽嶋さんね?いいえ、磯崎さんね。私は龍二様のファンなの!同居してるって、どういうこと?全校の龍二様ファンを敵にしたアナタ!後悔するのを覚悟しておきなさい!私は諦めない!正々堂々勝負しましょう!」
質問ぜめされるのかと思ったら、宣戦布告だった。
そう言って去っていく。
龍二ファン、そこは優しいんだね。
ひとりでうなずいていると、今度は研由ファンが大勢でおしかけてきた。
「わざわざ見にきてやったら、ただのポンコツ女子だね。それに比べて、あたしは勉強を毎日欠かさなかった…!あたしの疑問に全て答えてもらうからね⁉︎」
ポンコツ女子って…かなりメンタルやられるな。
「そんなに訊きたいなら、本人の俺に訊いてくれよ」
「研由先輩っ!」
研由ファンのひとりが目を輝かせる。
「今すぐ俺のファン、解散しろ。俺の大切な女は、そこにいるポンコツ女子だからな」
ポンコツって…研由まで。
「今までずーっとファンだったんです。だから、急にやめろだなんて…私は無理です」
「好きにしろ。だけど、俺はポンコツ女子しか見てないんだよ」
2度目のポンコツ。
「うわぁぁぁんっ!研由センパァイ……のバカァッ!」
研由は歳下のファンが多かったみたい。
私をポンコツと言った人は、3年生だったみたいだけど。
その子は涙を流して走ってしまった。
みんなもその子についていくように、いなくなった。
研由がクルリと振り向く。
「もう俺のファンはいねぇよ。安心しな」
「でも…よかったの?」
「言っただろ、大切な女は俺の目の前にいる、ポンコツ女子って」
ポンコツ3度目。
「もう!研由!」
「牛かよ」
「ひどい!」
私たちは笑い合うと、無事に先生に資料を届けることができた。