糖分取りすぎ警報‼︎

「俺、明寿咲が読モするって言ったから一緒に撮影できると思ったのに、まさか撮影できないなんてな…」
「何?」
「だから今させて。はい、チーズ」
バックハグでツーショット。
すごく緊張して、胸がバクバクと高鳴っている。
「ちゃんとドキドキしてくれた?」
「し、したよ。ものすごく」
「俺を意識してくれて、ありがと。あと言っておくけど…俺は、明寿咲を義妹…同居人としてみてないからね」
意味不明なことを言うと、軽々と私を持ち上げる。
「ちょ、ちょっと龍二…!」
「お姫様抱っこされるの、初めてじゃないでしょ?だからいいじゃん」
もう、なんなの…!
「俺につかまっててよ?振り落としちゃうから」
「…そういう冗談はいらないから‼︎ 関係ないんだけど…私が捨てられた理由は、3人で生きていくのは厳しかったらしいの。でね、ほとんどが偽りの愛だったんだって。それを知ったときは、ショックで。そんなとき、4人に引き取られて…すごく助かった。引き取り先が、磯崎家でよかったって、心からそう思ってる」
私が龍二の方を見ると、肩をふるわせて笑っていた。
「…っ。伝えたいことはわかるけど…ちょっと明寿咲、説明下手すぎじゃない?」
「せっかく正直に言ったのに」
「ごめん、ごめん。はい、明寿咲の部屋に到着〜」
そうだった‼︎
お姫様抱っこされていたことを忘れていたなんて…。
「ありがと…」
「どういたしまして」
龍二は微笑んでその場をはなれた。
「あとで夜ご飯、作らなきゃ…」
学校の課題を終わらせると、睡魔がおそった。
「ちょっとだけ…」
ベッドに倒れこむ。
疲れた…実は今日、私の誕生日だった。
誕生日だっていうのも、自分から言うことじゃないし…。
ため息をついて、私は布団を頭からかぶり、夢の世界へはいってしまった。
「明寿咲、夜ご飯…」
その言葉で、目が覚めた。
忘れてた。すぐに作らないと…。
「お誕生日おめでと〜‼︎」
「ふぇっ?」
李月がクラッカーをパン、と鳴らす。
「お、おい!李月はやいって!…明寿咲、誕生日おめでとう」
そう言って時尾留がクラッカーを鳴らす。
続いておめでとう、という言葉と共に2つの音が鳴る。
ギュッと李月に抱きしめられて、頬が熱帯びてくる。
「明寿咲、夜ご飯はケーキを買ってきたんだけどね、僕が選んだんだ!食べてね♡」
「もちろん。みんな、いつの間に…すごい…ありがとう」
「あはは、どういたしまして。…お姫様、お席へお連れします」
時尾留が手を差し伸べてくれる。
本当にお姫様になったみたい。
そもそも、4人は学園の王子様だしね。
テーブルには高級そうなハンバーグや実が大きくて絶対おいしいシャインマスカット…。
天井には、お誕生日おめでとうという文字。
「これ、全部みんなで…?」
「まあね。でも、ご飯は全てがお持ち帰りのやつだけど…それでもいいかな、明寿咲?」
顔をのぞきこまれ、慌ててそっぽをむく。
「全然いいよ、ありがとう…みんなも…ちょっと待って、すごく嬉しい」
私が泣きそうになっていると、龍二が椅子をひいて座らせてくれた。
研由はおそるおそる自分の手を私の背中に手を当てて、さすってくれる。
さすが双子、息ぴったり。
普段は2人が双子だということを忘れそうだけど、こういうときは連携が取れている。
そんなことに感心してる場合じゃなかった。
4人に感謝を伝えよう。
「親にっ…捨てられたときは、誕生日をむかえるのが怖かった。13歳になるのが、怖かった。養子になったら、そこで私は上手くやっていけるのか…でも、今は言葉にならないくらい幸せ。13歳の誕生日は、最高の日になったよ。本当にありがとう」
涙をふきとって、満面の笑みを浮かべると、
「俺も幸せだよ。義妹になるのが、明寿咲でよかった」
時尾留が頭をよしよしと撫でてくれる。
「夜はDVD観ようよ‼︎ 今日、明寿咲が好きそうなの借りてきたんだよ♡」
バッチリウインクを決めて、李月が微笑む。
「まずはご飯だろ」
「そうだけど〜…あとはね、買ってきたポップコーンを僕と明寿咲だけで食べながら…」
李月の妄想に笑いながら、全然席につき、夜ごはんを食べる。
「おいしい〜!みんな、ありがとう」
「ハンバーグは研由の提案だったんだ。それは好きそうだからって。あとケーキは…なんだっけ、研由?」
時尾留に話をふられると、研由は得意気に、
「ケーキは普段の食事とは異なり、特別な機会にふさわしい豪華さと甘さを持っていて、誕生日のお祝いの起源は古代文明にさかのぼる。古代エジプトや古代ギリシャでは、王や神々の誕生日を祝う風習があったんだ。『誕生日おめでとう』という言葉は、相手の存在を認め、尊重する意味も含まれていて、誕生日を覚えていてくれたこと、そしてその日を特別に祝ってくれることは、相手が大切だからこそ。その他、祝福、感謝、そして未来への祈りという多くの意味が込められているんだ。そして、誕生日を祝わない国もあるもあるんだけど…」
「はいはい、そこまで」
時尾留にとめられ、研由は渋々と黙る。
「まあ、でも…話してるときの研由はいきいきとしてたよ」
私が微笑むと、研由は苦笑いした。
「俺もちょっと喋りすぎたっていう自覚はあるんだけどね…」
「お前の場合、本当に『ちょっと』だろ」
龍二のツッコミに、みんなに笑いの嵐がおとずれる。
おいしいご飯とケーキを食べて、お腹いっぱいになって。
「で、李月はホントにDVD観たいのか?」
「もちろん。そういう時尾留だってそう思ってるでしょ。僕、ポップコーン用意してくる!みんなは座ってて。あ、僕、明寿咲の隣予約!」
「予約とかないから〜」
研由がそう言うと、聞こえないふりをした李月がポップコーンを取りに行く。
「じゃあ、俺が明寿咲の隣で」
龍二が自然に私の隣に座った。
「アイツ、うるさいから席空けておいてあげるか」
時尾留はため息をつきながら、龍二の隣に座った…とほぼ同時に李月が両手にポップコーンの箱を抱えて走ってきた。
「ふー、危ない、危ない。明寿咲の隣、あいててよかった」
李月は私の左隣に座ると、DVDをつけ始めた。
「俺は李月の隣だな」
研由は雰囲気を出そう、という李月の提案で、座ろうとしたのに座れていなかった。
李月の提案というのは、部屋の電気を消して映画館っぽくする、というものだった。
しばらくしてポップコーンを取ろうとすると、李月とタイミングがかぶってしまった。
手と手が当たってしまって、ごめん、とあやまろうとすると、李月は唇に人差し指を当てた。
「ほら、食べたいんでしょ。あーん」
李月は小声で言って、ポップコーンを持っていた。
「バレたくないんだったら、はやく」
「わ、わかった」
おそるおそる口を開けると、ポトン、とポップコーンが落とされる。
塩味なのに、甘い。
それってきっと…この同居生活が、とびきり甘いからだよね。
スマホのアラームに、私は飛び起きる。
お気に入りの私服を着て、鏡の前でほんのりメイクをする。
昨日はたくさんお祝いしてもらっちゃったなぁ…。
歯磨きをしたのに、まだあのポップコーンの味が残ってる。
あの映画を観た後は、お風呂に入って、歯を磨いて寝たんだよね。
今日は和花さんが11時頃にやってくる。
現在、9時半。
朝ご飯の用意をしなくちゃ。
キッチンに立って、レバーを使ったサラダを作っていると、
「おはよ。緊張してる?」
研由が姿をあらわした。
「なんでわかったの?」
「背中が不安そうに見えた。えーと。龍二からの伝言。『俺は朝に弱いから和花さんが来る時間までぐっすり眠ってるけど、明寿咲が緊張してたら伝えて。まだ未来はそのときになってみないとわからないよ』…だって」
龍二…私が緊張したときの言葉まで…それを伝えてくれたのは研由だけど…。
「もうすぐ作り終わるから、席についてていいよ」
「わかった」
研由はまだ何か言いたそうな顔をしていたけど、今は千紗と仲直りできるかという気持ちでいっぱいだった。
千紗に義理のお姉さんがいたことも、驚きだったし…。
龍二以外で朝ご飯を食べたけれど、みんな黙々と無言で食事をしていた。
きっと、私の緊張が伝わっちゃってるんだろうな…。
「明寿咲、その服似合ってる」
「あ、ありがとう」
時尾留が口を開き、何を言うのかと思ったら、ほめてくれた。
「お気に入りの服なんだ。これでちょっとでも気合を入れようって」
「頑張って」
「うん…ありがとう」
それで会話が終了してしまって、
「明寿咲、その服は似合ってるんじゃなくて、かわいいよ」
と李月がみんなの様子をうかがいながら言ってくれた。
「ありがと…」
ダメだ。すごく調子が狂う。
そんなことなど関係ないというように、チャイムが鳴る。
「え⁉︎ もうこんな時間⁉︎」 
慌てて立ち上がり、食器を片付ける。
「俺、なんか長話して、和花さんをその場にとどめてくる‼︎」
研由が玄関の方へ走っていく。
「僕は〜、龍二を起こしてくるねっ♡」
李月が笑顔を残して立ち去ると、時尾留だけがすることをなくして、その場で戸惑っていた。
「明寿咲、俺は…」
「食器を棚に戻してほしい!」
「わ、わかった!」
ドタバタな騒ぎだったけれど、なんとか準備を間に合わせて、和花さんの車に乗り込んだ。
「すみません、車まで出してもらっちゃって…」
「いえいえ、いいんです。明寿咲ちゃん、道案内をお願いします」
「はい…っ!」
あぁ、いきなりドキドキしてきた。
姿勢を正すと、隣に座っていた李月が無言で手を握ってくれた。
李月の方を見ると、子犬でもない、クールでもない微笑みをうかべて、うなずいていた。
大丈夫、というように。
李月に力をもらい、気が付いたら千紗の玄関の前に立っていた。
「俺たちはここで待ってるからさ。行ってこいよ、和花さんと一緒に」
研由が背中を押してくれた。
「行ってくる」
4人はガレージに隠れ、
「じゃあ、押すよ?」
和花さんが、インターホンを鳴らす。
『はーい』
千紗らしき人の声が聞こえる。
「こんにちは、読者モデルをしているマネジャーの和花です。この度は、末永 千紗さんにご用がありまして…」
『えっ⁉︎ あ、はい…?今行きます‼︎』
バタン、という音と共に、千紗が出てくる。
「あ…」
私と目が合ったけれど、フィッとそらされてしまった。
「あの、和花さん?でしたっけ。その、読者モデルの話というのは?」
ソワソワした様子で和花さんを見つめる千紗。
「はい。千紗さんの学校に通っている、李月さんがいますよね?李月さんは、読者モデルをしている…私がマネジャーなんですよ。そして、親に捨てられてしまったこちらの…明寿咲さんと、李月さんは同居しているのです」
読者モデルの話から、少しずつ話をそらしていく和花さん。
千紗を見ると、目を見開いて絶句していた。
「お、親に捨てられたって…本当のことなの、明寿咲?」
「うん」
「じゃあ、入学式の次の日から3日間くらい、元気がなかったのは…悲しかったから…?学園の王子様の話をして頬が緩んでたのは、同居してたから?あの新聞記事も…本当のことだったんだね。でも、明寿咲は私に教えてくれなかった。それは、同居してるっていう大きな秘密を抱えてたから…」
千紗はブツブツと唱えるように言うと、私を見つめた。
「こんなこと、なんで言ってくれなかったの?」
怒るわけでもなく、ただたずねられた。
「……私が、本物の親友じゃなかったから…?」
「…違う。親に捨てられたことを千紗に言ったら、心配しちゃうと思ったの。私は大丈夫だから…そう自分に言い聞かせて…言わなかった。だから…千紗は大切な親友だよ。もう、千紗は私のこと、親友じゃないって思ってるかもしれないけど…私はいつまでも、親友だと思ってる」
「明寿咲…簡単に、偽りとか言ってごめん。明寿咲がきっと、1番わかってたよね…。仲直り記念に、写真撮らない?私たちは、ずっと親友だよって」
私は笑顔で大きくうなずいた。
「実はね、もうふたつ話さなきゃいけないことがあって…」
和花さんの方と、ガレージの方を交互に見る。
「どうしたの?」
「サプラーイズ‼︎ …実は俺たち、盗み聞きしてました‼︎」
時尾留が得意気に言うと、千紗に頬を叩かれていた。
「痛っ…千紗ちゃん、お顔はかわいいのに、することは乱暴なんだね…俺、女子からビンタされるの初めてかも。でも、今俺、ちょっとドキドキしてるよ。千紗ちゃんは?」
わっ、時尾留が小悪魔になって、千紗に迫ってる‼︎
千紗は頬を真っ赤にしている__と思いきや、
「ちょっと、変なこと言わないでくれます?先輩。こんなところ見られたら、私の学校生活どうなると思ってるんですか?」
「へっ?」
「あの、なんなんですか?やめてください」
さすがに時尾留も拍子抜けしたようで、
「あ、あぁ…ごめん」
と素直にあやまっていた。
「ひとつ目は、4人がいたことね。もうひとつは?」
千紗がいぶかしむように4人を見つめた。
「ふたつ目は、俺たちじゃなくて…」
「私です」
研由と和花さんが続けて言う。
「和花、さん…?」
「はい…私は…千紗、あなたの義姉です」
「え…っ?」
千紗は息をのんだ。
和花さんは信じて、という瞳で千紗を見ていた。
「でも、私とお母さんは…2人暮らしです。お父さんがいたという話も聞いたことがないし…」
和花さんは千紗が納得するまで話をした。
今までのことを、全て。
「では、あなたが…お姉ちゃん」
「そうだよ。…写真でも撮ろっか」
「待って。明寿咲、1日遅れてごめん。お誕生日、おめでとう」
千紗からプレゼントを受け取る。
「ありがとう!」
「でもきっと、もう明寿咲は盛大にお祝いされてるよね」
話の流れがはやいけど、照れくさそうに笑う千紗を見ると、本当に仲直りできたんだと実感する。
「じゃあ、俺からもうひとつプレゼント」
研由の声がして、なんだろうと振り返ると、あごに手をそえられ、そっと頬にキスされる。
和花さんが小さく悲鳴をあげた。
「きゃっ…アピールがすごい」
も〜‼︎ 研由!
「明寿咲ちゃんもかわいい。ほっぺた、真っ赤だよ」
「そ、そんな…っ‼︎」
「まぁまぁ、写真撮るんでしょ」
龍二がカメラをかまえる。
「そうだった!」
「みんな、画面にはいった?いいね、いくよ。はい、チーズ」
パシャ。
まぶしいっ…。
一瞬、目を閉じてしまったけど、たぶん大丈夫なはず。
「ブフッ…」
龍二がふきだしそうになるのを、無理やりこらえてる。
「あ、明寿咲の顔…顔が…」
「ヤバいよ、これ!何この半開きの目!」
龍二のスマホをひっつかみ、慌てて消そうとする。
「これも思い出の1枚じゃん。ね?」
スマホを取り返され、高々と持ちあげる。
「そういえば千紗、このプレゼント開けてもいい?」
「もちろんっ!」
「わっ…!すごくかわいい!」
中にはいっていたのは、ネックレスだった。
チェーンにぶら下がっているのは、輝くリング。
「俺がつけてやるよ」
クールモードの李月が、ネックレスを持つと、首からさげてくれる。
「あ、ありがと…」
「明寿咲ちゃん、モテモテだね」
和花さんにそっと耳うちされる。
「いえいえ、これでも義兄なので…!」
「でも、血はつながってないんでしょ?ワンチャン有りかもよ」
「そんなことないです!」
ここは全否定しておかないと。
キスはファーストもセカンドもうばわれ、ずっとドキドキしてきただけ。
ん?でもそれって…いやいや、ありえないよ…ね?
でももしそうだとしたら、私は誰なのか決められないよ。
クールモードで少し笑う李月。
家では子犬だけど。
みんなを微笑ましく見つめる龍二。
すごく優しいもんね。
頭脳系だけど実はちょっとだけ、照れ屋かも?
そんな研由。
お兄ちゃん的存在…というかお兄ちゃんなんだけど、みんなをまとめてくれる時尾留。
私は、誰かを選ばなくてはいけないの…?
「どうした、明寿咲」
龍二が私の様子に気がついたのか、声をかけてくれる。
別に、この誰かと付きあえってわけでも、結婚しろってわけでもないもんね。
「ううん。なんでもない!」
私は笑顔をむけた。
月曜日。
日曜日はゆっくりして、学校へ行くのが辛い。
眠いし、朝が早いし…。
でも、学校へ行ったら、そんなこと悩みの種でもなんでもないことが判明した。
眠い目をこすりながら登校すると、千紗が下駄箱で待ち構えていた。
「おはよう、千紗…」
「明寿咲っ‼︎ あっ、おはよう。大変なんだよ〜‼︎」
なんだろうとマイペースな気分で考えていると、
「鬼塚さんが、全校に広めたの‼︎」
「何を〜?…ん?えっ、鬼塚さん⁉︎」
千紗は声のトーンを落として、
「学園の王子様と同居してるということを」
「はあ⁉︎」
思わず大きな声をあげてしまった私。
「学校に来るまで、チラチラ見たりされなかった?」
「眠かったから…」
「すっごくピンチだよ〜っ!」
なぜだか千紗は楽しそう。
「だって、きっと4人が守ってくれるもんっ」
いやいやいや⁉︎ その自信はどこから出てくるんだい⁉︎
「そんなことないって‼︎ 今はホントにホント、ピンチなんだから!」
「そんなことないって、何?」
ギン、とつきささるような視線を感じて、おそるおそるふりかえってみると。
「明寿咲は素直に俺に守られていればいいものの。だけど明寿咲は何も考えなくていい。俺が勝手に守るから」
「時尾留…!」
「俺のこと、なめてた?一応、明寿咲より先輩だし、男なんだ。もめごとくらいは俺が守ってやれるだろ」
なんか今日の時尾留、いつもの時尾留じゃない…!
「じゃあ」
時尾留はサッと靴を履き替え、廊下を歩いていく。
その背中が、なんだかたのもしかった。
「わーっ!やっぱり守ってくれた!」
「でも、学年も組も違うでしょ…?」
「だったら、同じ学年で同じ組はどう?」
千紗がキラッキラの瞳で見つめてくるから、私はあははと苦笑い。
「ウワサをすれば、ほら!さすが、ウワサの4兄弟だわっ‼︎」
そういう意味ではないんじゃないか…?
と心の中でツッコミをいれ、千紗の視線の先を見ると。
不機嫌な、李月だあぁっ‼︎
制服を着崩して腕をくみ、
「時尾留め、アイツ、調子に乗りやがって…1番明寿咲を守れるのは、この俺だろうが…」
ボキボキと指を鳴らす李月。
そして李月は私だけに聞こえるように、
「俺はどんなときも明寿咲を想う気持ちは変わらない。めんどくさいことは気にすんな、さっさと僕__この李月様に守られればいい」
そうささやく。
「ほら、行くぞ」
腕をひかれて、カバンをダルそうに持つ李月は、不良そのもの。
「李月、こういうことが李月のファンに知られたらどうするの?」
「別に知られたっていい。俺が好きなのは、明寿咲だから」
「もう、からかわないでよね…!」
その後ろを、千紗がキャーキャー言いながらついてくる。
「おはよう、李月くん…は⁉︎ なんでアンタと…?」
「おはよう、鬼塚さん」
満面の笑みを鬼塚さんにあびせると、
「てっきり、みんなに嫉妬されすぎて来ないかと思っちゃった。来れてよかったね」
鬼塚さんも負けじと笑顔で返す。
「そんなことなかったな。それ、鬼塚さんの勘違いだったんじゃない?」
「確かに、勘違いだといいけど。これからが怖いもんね。気をつけて」
李月はつまらなそうに机にひじをつき、
「翠(すい)も、これからどうなるかわからないから、注意しておいたほうがいいんじゃない」
「ヤダ〜、李月くんったら。私の名前、覚えてくれてたの?鬼塚翠。綺麗な名前でしょ?」
「名前だけだよね」
千紗がボソッとつぶやく。
それが聞こえていたのか、李月に背中をむけて千紗をキッとにらむ。
朝から大変だよ〜…。
昼休み、理科室へ先生から頼まれた資料を取りに行くと、
「そこにいるのは羽嶋さんね?いいえ、磯崎さんね。私は龍二様のファンなの!同居してるって、どういうこと?全校の龍二様ファンを敵にしたアナタ!後悔するのを覚悟しておきなさい!私は諦めない!正々堂々勝負しましょう!」
質問ぜめされるのかと思ったら、宣戦布告だった。
そう言って去っていく。
龍二ファン、そこは優しいんだね。
ひとりでうなずいていると、今度は研由ファンが大勢でおしかけてきた。
「わざわざ見にきてやったら、ただのポンコツ女子だね。それに比べて、あたしは勉強を毎日欠かさなかった…!あたしの疑問に全て答えてもらうからね⁉︎」
ポンコツ女子って…かなりメンタルやられるな。
「そんなに訊きたいなら、本人の俺に訊いてくれよ」
「研由先輩っ!」
研由ファンのひとりが目を輝かせる。
「今すぐ俺のファン、解散しろ。俺の大切な女は、そこにいるポンコツ女子だからな」
ポンコツって…研由まで。
「今までずーっとファンだったんです。だから、急にやめろだなんて…私は無理です」
「好きにしろ。だけど、俺はポンコツ女子しか見てないんだよ」
2度目のポンコツ。
「うわぁぁぁんっ!研由センパァイ……のバカァッ!」
研由は歳下のファンが多かったみたい。
私をポンコツと言った人は、3年生だったみたいだけど。
その子は涙を流して走ってしまった。
みんなもその子についていくように、いなくなった。
研由がクルリと振り向く。
「もう俺のファンはいねぇよ。安心しな」
「でも…よかったの?」
「言っただろ、大切な女は俺の目の前にいる、ポンコツ女子って」
ポンコツ3度目。
「もう!研由!」
「牛かよ」
「ひどい!」
私たちは笑い合うと、無事に先生に資料を届けることができた。
何週間かして、私と4人は全校に正式の同居人として認められた…はず。
「誰よ、同居人って最初に騒ぎ立てたのは!」
そんな言葉が廊下から響いてきて、
「私は諦めないからっ。たとえ、あの子が同居人だとしても!」
と賛成する声も聞こえた。
鬼塚さんは気まずそうなそぶりをいっさいみせることなく、自称・クラスのリーダーを続けている。
「翠が最初に広めたってウワサ、本当?」
「お兄ちゃんもなんか関係してるんだってね、翠がお兄ちゃんを従わせたとか」
「えー、なにそれこっわ!」
クラスメイトのヒソヒソ声。
チラッと鬼塚さんを見ると、やっぱり声が聞こえていたのか、ピクッと眉が動いた。
その声に反応する鬼塚さんの取り巻きたち。
「翠ちゃんって…」
「黙って‼︎」
取り巻きのひとりが何かを話し出そうとして、鬼塚さんがするどく叫ぶ。
「私は、私は…お兄ちゃんを利用なんかしてない」
鬼塚さんらしくない、目を見開いて、なにも見えていないかのように告げた。
「翠、ちゃん…?」
「あ…ううん。なんでもないよ」
どうしたんだろう、鬼塚さんの様子がおかしい。
でも別にどうだっていい。
私たちの同居のことを広めた犯人だし、苦しめばいい。
私はそう思って、視線を鬼塚さんから外した。
「あー、いい気持ち」
休み時間、千紗が教室の窓を全開にして、髪を風になびかせてる。
「そうかな」
そんな千紗とは違って、私は持っていたシャープペンをカチカチ鳴らす。
「え、何?なんか悩み事?」
「悩み事〜?っていうかなんていうか…」
「どうしたのよ、結構深刻そうな顔してるけど」
私、そんな深刻そうな顔してるんだ...。
「鬼塚さんが、ちょっとかわいそうに思えてきちゃった」
「…へぇっ⁉︎ ちょっと明寿咲、マジ⁉︎」
「うん」
千紗は私の言葉に目を見開いて絶句している。 「優しすぎでしょ…私、鬼塚さんのこと、大っ嫌いなんだよね。でも…明寿咲にとっては…?」
千紗は信じられないのか、ブツブツと言っている。
「あとで私、話しかけてみる!」
「え、明寿咲本気⁉︎」
「うん、本気」
千紗は白目をむいちゃってるけど、私は本気。
放課後、鬼塚さんの取り巻きたちが帰って行って、鬼塚さんも帰ろうとしたところを、私が呼びとめた。
「何?私に文句つけにきたの?」
にらみつけられ、ひるみそうになる。
「ううん。鬼塚さん、傷ついてなかったかな、って思って」
「はあ?アンタ何いい子ぶってんのよ。誰も見てないんだから、そんないい子ぶらなくてもいいのに」
「鬼塚さんが…翠ちゃんがお兄ちゃんを大切にしてる気持ち、すごく伝わった。私も、4人が大切だから」
話がかみあっていないけど、私の伝えたいことが伝わるといいな。
「勝手に名前で呼ばないで‼︎ しかも、私のお兄ちゃんを4人と比べないでよ。そんなこと言ったら誰も4人に敵わない。4人は学園の王子様とか呼ばれてるけど、きっとお姫様になれるのはアンタよ。それが悔しかったの‼︎ なんとしてでも邪魔しようと思った。同居のウワサを広めれば、アンタは全校から嫌われて、批判されると思ったのに‼︎ なんで私が…⁉︎ アンタは恵まれた人なんだよ。だからだよ。そんないい子ぶれるのは。私の前でもいい子ぶって、何がしたいの⁉︎ 私、アンタのこと嫌いなんだけど‼︎」
鬼塚さん…ううん、勝手に私が呼び始めたけど、翠ちゃんの心のモヤモヤが全部吐き出された気がした。
「私だって翠ちゃんのこと嫌いだよ?大っ嫌いだよ?同居を広めた犯人だし、そもそも私は恵まれてない。親から捨てられて、拾われた先があの4人の家庭だったっていう偶然。だから、翠ちゃんの前でいい子ぶってるつもりはない。むしろ、態度悪いと思うんだけど?だけど…お兄ちゃんを想う翠ちゃんの気持ちも本物。私を嫌いと思う気持ちも本物かな?ふふっ」
意地悪く笑ってみせると、翠ちゃんも腕を組み直す。
「そうかも。アンタのこと…」
「明寿咲なんだけど」
サラッと口をはさむと、
「あ、明寿咲…ね。わかった。私、明寿咲のこと嫌いだから」
「わざわざ言い直さなくてもよくない?」
「もう、アンタ…明寿咲何よ。調子狂うじゃない」
ニッコリ微笑み合う私たち__だけどお互い目が笑っていない。
バチバチの…まさにライバル、という感じ。
私は翠ちゃんにクルリと背を向け、帰り道を急いだ。
何週間かして、私と4人は全校に正式の同居人として認められた…はず。
「誰よ、同居人って最初に騒ぎ立てたのは!」
そんな言葉が廊下から響いてきて、
「私は諦めないからっ。たとえ、あの子が同居人だとしても!」
と賛成する声も聞こえた。
鬼塚さんは気まずそうなそぶりをいっさいみせることなく、自称・クラスのリーダーを続けている。
「翠が最初に広めたってウワサ、本当?」
「お兄ちゃんもなんか関係してるんだってね、翠がお兄ちゃんを従わせたとか」
「えー、なにそれこっわ!」
クラスメイトのヒソヒソ声。
チラッと鬼塚さんを見ると、やっぱり声が聞こえていたのか、ピクッと眉が動いた。
その声に反応する鬼塚さんの取り巻きたち。
「翠ちゃんって…」
「黙って‼︎」
取り巻きのひとりが何かを話し出そうとして、鬼塚さんがするどく叫ぶ。
「私は、私は…お兄ちゃんを利用なんかしてない」
鬼塚さんらしくない、目を見開いて、なにも見えていないかのように告げた。
「翠、ちゃん…?」
「あ…ううん。なんでもないよ」
どうしたんだろう、鬼塚さんの様子がおかしい。
でも別にどうだっていい。
私たちの同居のことを広めた犯人だし、苦しめばいい。
私はそう思って、視線を鬼塚さんから外した。
「あー、いい気持ち」
休み時間、千紗が教室の窓を全開にして、髪を風になびかせてる。
「そうかな」
そんな千紗とは違って、私は持っていたシャープペンをカチカチ鳴らす。
「え、何?なんか悩み事?」
「悩み事〜?っていうかなんていうか…」
「どうしたのよ、結構深刻そうな顔してるけど」
私、そんな深刻そうな顔してるんだ...。
「鬼塚さんが、ちょっとかわいそうに思えてきちゃった」
「…へぇっ⁉︎ ちょっと明寿咲、マジ⁉︎」
「うん」
千紗は私の言葉に目を見開いて絶句している。 「優しすぎでしょ…私、鬼塚さんのこと、大っ嫌いなんだよね。でも…明寿咲にとっては…?」
千紗は信じられないのか、ブツブツと言っている。
「あとで私、話しかけてみる!」
「え、明寿咲本気⁉︎」
「うん、本気」
千紗は白目をむいちゃってるけど、私は本気。
放課後、鬼塚さんの取り巻きたちが帰って行って、鬼塚さんも帰ろうとしたところを、私が呼びとめた。
「何?私に文句つけにきたの?」
にらみつけられ、ひるみそうになる。
「ううん。鬼塚さん、傷ついてなかったかな、って思って」
「はあ?アンタ何いい子ぶってんのよ。誰も見てないんだから、そんないい子ぶらなくてもいいのに」
「鬼塚さんが…翠ちゃんがお兄ちゃんを大切にしてる気持ち、すごく伝わった。私も、4人が大切だから」
話がかみあっていないけど、私の伝えたいことが伝わるといいな。
「勝手に名前で呼ばないで‼︎ しかも、私のお兄ちゃんを4人と比べないでよ。そんなこと言ったら誰も4人に敵わない。4人は学園の王子様とか呼ばれてるけど、きっとお姫様になれるのはアンタよ。それが悔しかったの‼︎ なんとしてでも邪魔しようと思った。同居のウワサを広めれば、アンタは全校から嫌われて、批判されると思ったのに‼︎ なんで私が…⁉︎ アンタは恵まれた人なんだよ。だからだよ。そんないい子ぶれるのは。私の前でもいい子ぶって、何がしたいの⁉︎ 私、アンタのこと嫌いなんだけど‼︎」
鬼塚さん…ううん、勝手に私が呼び始めたけど、翠ちゃんの心のモヤモヤが全部吐き出された気がした。
「私だって翠ちゃんのこと嫌いだよ?大っ嫌いだよ?同居を広めた犯人だし、そもそも私は恵まれてない。親から捨てられて、拾われた先があの4人の家庭だったっていう偶然。だから、翠ちゃんの前でいい子ぶってるつもりはない。むしろ、態度悪いと思うんだけど?だけど…お兄ちゃんを想う翠ちゃんの気持ちも本物。私を嫌いと思う気持ちも本物かな?ふふっ」
意地悪く笑ってみせると、翠ちゃんも腕を組み直す。
「そうかも。アンタのこと…」
「明寿咲なんだけど」
サラッと口をはさむと、
「あ、明寿咲…ね。わかった。私、明寿咲のこと嫌いだから」
「わざわざ言い直さなくてもよくない?」
「もう、アンタ…明寿咲何よ。調子狂うじゃない」
ニッコリ微笑み合う私たち__だけどお互い目が笑っていない。
バチバチの…まさにライバル、という感じ。
私は翠ちゃんにクルリと背を向け、帰り道を急いだ。
「ただいま」
「おかえり、明寿咲。遅かったじゃん」
すぐに龍二がむかえてくれた。
「みんなにもただいまって…」
「今は俺だけを見てよ?」
私の肩を両手で持ち、至近距離で言われ、
「龍二…?」
「俺だけ明寿咲を守ってなかったと思ったら大間違いだから。裏でちゃんと俺のファンに言っておいたし。俺にいつも明寿咲を守らせてほしい」
いつもと違う雰囲気で、熱帯びた頬と真剣なまなざしに私はドキッとしてしまった。
「龍二、そこまでだよっ!」
突然、李月が飛び出してきた。
「な、なんだよ李月か」
「こっちのセリフだっ‼︎」
2人がギャーギャー争っている間に、時尾留と研由も顔を出した。
「明寿咲、おかえり」
「おかえり〜」
2人に笑顔で言われ、私まで笑顔になる。
「で、龍二に何を言われてたんだ?」
時尾留が腕組みをしながら言う。
李月とたわむれていた龍二が、ピクリと眉を動かして、私をチラリと見やる。
「べ、別に関係ないから!」
「なんだよ、俺たちは明寿咲のお兄ちゃんなのに」
研由が口をとがらせると、
「全然関係ないけど、鬼塚ってお兄ちゃんのこと大好きなんだって。鬼塚は明寿咲をいじめるイヤなヤツだけど、そういうところはかわいいよね。でも安心して?僕、だんぜん明寿咲派だから」
ひとりで話す李月に、みんながあきれている。
「あ、そういえばね。鬼塚さんのこと、翠ちゃんって呼べるようになったし、ちょっと…ほんのちょっとだよ?…和解したかも」
「わーっ‼︎ 明寿咲、エライよ!でも、無理してない?もし、明寿咲に変なゴミがついたら言ってね」
怖いことを言いながら笑顔で微笑まれ、私は苦笑いをするしかなかった。
とりあえず、龍二の話題をさけることができた。
そう思った瞬間__
「話がズレてるよ。明寿咲は龍二に何を話してたの?」
と、時尾留が目を細めながら言う。
「ただ…守ってやるって言っただけだ」
龍二が目を伏せて告げた。
「ああ、悪いが俺が守ると1番最初に宣言したはずだけど?なぁ、明寿咲」
「時尾留。そんな調子に乗らない方がいいよっ!クラスが同じの僕が1番守れるのに…ね、明寿咲?」
「2人とも!俺が守れるんだ。いや、守るんだ。明寿咲が俺のファンにからまれたとき、ファンクラブを解散させたほどなんだ。そうだよな、明寿咲」
時尾留、李月、研由がバチバチしている間に、龍二がコソッと私にささやく。
「俺が明寿咲を守るのに1番ふさわしいよね」
パチっとウインクをキメると、すぐに3人が、
「「「龍二はいつもおいしいところをもってくな〜‼︎」」」
と声をそろえて言う。
「僕、お腹すいたぁ〜。明寿咲、ご飯つくれそう?」
「うん。もちろん」
私は私服に着替えると、キッチンに立って夜ご飯をつくりはじめた。
翌日。
また千紗に玄関でまちぶせされていた私は、身構える。
「おはよう。今度は何?」
「おはようっ…っていうかさぁ!明寿咲はのんびり屋さんだなぁ…」
千紗はあきれて黒目をグルリと一周させる。
「鬼塚さんとはどうなの?昨日、話しかけたいとか言ってたけど。さすがに…」
「うん。ちょっと和解したよ」
「ふーん。やっぱり和解したんだ…?ん?わ・か・い⁉︎ 和解〜⁉︎」
オーバーなリアクションをした千紗の肩に、ポン、と手をのせる。
「千紗もできるよ、和解」
「いやいやいや、いやいや〜ッ!結構です!固くお断りいたします!」
千紗はクルリと背を向け、バッとかけだす。
「ま、待ってよ、千紗〜っ!」
私も慌てて靴をぬぎ、上履きに履き替える。
そして、廊下をダッシュする。
ドンッ
「あ、ごめんなさ…翠、ちゃん…?」
教室前の廊下で、翠ちゃんにぶつかってしまった‼︎
でも、何か違和感。
「ご、ごめん‼︎ ホントにゴメンっ」
鼻で笑われるかと思った。
顔をあげると、想像以上に苦しそうに、悲しそうに私を見ていた。
「本当にごめんっ…」
「そんなあやまんなくていいから。私も必死に逃げてたところだし」
「逃げ、てた…?」
何に?
「たいしたことじゃないし、明寿咲には関係ない。だから、気にしないで。ほら、教室に行きたいんじゃないの?」
そうだ‼︎ 今日の翠ちゃんの周りに、取り巻きたちがいない!
「そうだけど…翠ちゃんに何があったか…心配で…」
「関係ないよね?口はさまないで」
冷たい目で見られ、私は何も言えなくなってしまった。
「おはよう、ございます…」
しずんだ気分で教室に入ると、心配そうに駆け寄ってきたのは千紗…ではなくあまり話したことのないクラスメイトたち、数名。
「どうしたの?大丈夫?顔色悪いよ?」
「もしかして、翠ちゃんに何かされた?」
「あたしたち、もう翠ちゃんに従うのやめたの」
なんだか、心配してくれているのに、恐怖を感じた。
昨日まで…翠ちゃんと仲良くしてたよね?
「何も、ないよ」
私がそう言うと、ひとりが安堵のため息をもらした。
「そっかぁ。それならよかった。すごく嫌がらせされてたみたいだから」
「そうそう〜!」
愛想笑いで私はその数人たちのグループからぬけだした。
「千紗、このなんていうの…状況、何?」
「そうなんだよね。裏新聞部の情報で、鬼塚さんから離れるように指示が出たの」
「な、なにそれ…誰から?」
す、翠ちゃんが…いきなり仲間はずれ、ってことだよね…⁉︎
「考えたくないんだけど…たぶん、鬼塚さんのお兄ちゃん、かな」
「そっか。裏新聞部と新聞部の部長だもんね」
私はそう言いながらも、信じられずにいた。
「昨日、2人が大ゲンカしたみたいなんだよ。それで、鬼塚さんのお兄ちゃんが新聞を発行。だから、全校から仲間はずれ、ってこと」
「そんな…兄妹ゲンカに全校を巻き込むなんて…」
「ね!ホント、ホント。こっちは迷惑だよ〜。鬼塚さんの取り巻きたちは喜んでるみたいだけど」
その言葉に、私はダッとかけ出した。