スマホのアラームに、私は飛び起きる。
お気に入りの私服を着て、鏡の前でほんのりメイクをする。
昨日はたくさんお祝いしてもらっちゃったなぁ…。
歯磨きをしたのに、まだあのポップコーンの味が残ってる。
あの映画を観た後は、お風呂に入って、歯を磨いて寝たんだよね。
今日は和花さんが11時頃にやってくる。
現在、9時半。
朝ご飯の用意をしなくちゃ。
キッチンに立って、レバーを使ったサラダを作っていると、
「おはよ。緊張してる?」
研由が姿をあらわした。
「なんでわかったの?」
「背中が不安そうに見えた。えーと。龍二からの伝言。『俺は朝に弱いから和花さんが来る時間までぐっすり眠ってるけど、明寿咲が緊張してたら伝えて。まだ未来はそのときになってみないとわからないよ』…だって」
龍二…私が緊張したときの言葉まで…それを伝えてくれたのは研由だけど…。
「もうすぐ作り終わるから、席についてていいよ」
「わかった」
研由はまだ何か言いたそうな顔をしていたけど、今は千紗と仲直りできるかという気持ちでいっぱいだった。
千紗に義理のお姉さんがいたことも、驚きだったし…。
龍二以外で朝ご飯を食べたけれど、みんな黙々と無言で食事をしていた。
きっと、私の緊張が伝わっちゃってるんだろうな…。
「明寿咲、その服似合ってる」
「あ、ありがとう」
時尾留が口を開き、何を言うのかと思ったら、ほめてくれた。
「お気に入りの服なんだ。これでちょっとでも気合を入れようって」
「頑張って」
「うん…ありがとう」
それで会話が終了してしまって、
「明寿咲、その服は似合ってるんじゃなくて、かわいいよ」
と李月がみんなの様子をうかがいながら言ってくれた。
「ありがと…」
ダメだ。すごく調子が狂う。
そんなことなど関係ないというように、チャイムが鳴る。
「え⁉︎ もうこんな時間⁉︎」 
慌てて立ち上がり、食器を片付ける。
「俺、なんか長話して、和花さんをその場にとどめてくる‼︎」
研由が玄関の方へ走っていく。
「僕は〜、龍二を起こしてくるねっ♡」
李月が笑顔を残して立ち去ると、時尾留だけがすることをなくして、その場で戸惑っていた。
「明寿咲、俺は…」
「食器を棚に戻してほしい!」
「わ、わかった!」
ドタバタな騒ぎだったけれど、なんとか準備を間に合わせて、和花さんの車に乗り込んだ。
「すみません、車まで出してもらっちゃって…」
「いえいえ、いいんです。明寿咲ちゃん、道案内をお願いします」
「はい…っ!」
あぁ、いきなりドキドキしてきた。
姿勢を正すと、隣に座っていた李月が無言で手を握ってくれた。
李月の方を見ると、子犬でもない、クールでもない微笑みをうかべて、うなずいていた。
大丈夫、というように。
李月に力をもらい、気が付いたら千紗の玄関の前に立っていた。
「俺たちはここで待ってるからさ。行ってこいよ、和花さんと一緒に」
研由が背中を押してくれた。
「行ってくる」
4人はガレージに隠れ、
「じゃあ、押すよ?」
和花さんが、インターホンを鳴らす。
『はーい』
千紗らしき人の声が聞こえる。
「こんにちは、読者モデルをしているマネジャーの和花です。この度は、末永 千紗さんにご用がありまして…」
『えっ⁉︎ あ、はい…?今行きます‼︎』
バタン、という音と共に、千紗が出てくる。
「あ…」
私と目が合ったけれど、フィッとそらされてしまった。
「あの、和花さん?でしたっけ。その、読者モデルの話というのは?」
ソワソワした様子で和花さんを見つめる千紗。
「はい。千紗さんの学校に通っている、李月さんがいますよね?李月さんは、読者モデルをしている…私がマネジャーなんですよ。そして、親に捨てられてしまったこちらの…明寿咲さんと、李月さんは同居しているのです」
読者モデルの話から、少しずつ話をそらしていく和花さん。
千紗を見ると、目を見開いて絶句していた。
「お、親に捨てられたって…本当のことなの、明寿咲?」
「うん」
「じゃあ、入学式の次の日から3日間くらい、元気がなかったのは…悲しかったから…?学園の王子様の話をして頬が緩んでたのは、同居してたから?あの新聞記事も…本当のことだったんだね。でも、明寿咲は私に教えてくれなかった。それは、同居してるっていう大きな秘密を抱えてたから…」
千紗はブツブツと唱えるように言うと、私を見つめた。
「こんなこと、なんで言ってくれなかったの?」
怒るわけでもなく、ただたずねられた。
「……私が、本物の親友じゃなかったから…?」
「…違う。親に捨てられたことを千紗に言ったら、心配しちゃうと思ったの。私は大丈夫だから…そう自分に言い聞かせて…言わなかった。だから…千紗は大切な親友だよ。もう、千紗は私のこと、親友じゃないって思ってるかもしれないけど…私はいつまでも、親友だと思ってる」
「明寿咲…簡単に、偽りとか言ってごめん。明寿咲がきっと、1番わかってたよね…。仲直り記念に、写真撮らない?私たちは、ずっと親友だよって」
私は笑顔で大きくうなずいた。