「ただいま」
その4文字が、苦しかった。
「おかえり、遅かったじゃん」
龍二が心配そうにむかえてくれた。
「大丈夫?すごく…顔色が悪いよ」
李月がヒョコッと部屋から顔を出した。
「1回、落ち着いてあっちで話そう」
研由が何かを悟ったように玄関に来た後、リビングへ行く。
「…手伝う」
時尾留が私のカバンを持ってくれた。
心配かけちゃったな…家に入る前に、笑顔をつくったのに。
リビングの椅子に座ると、4人も腰をおろす。
「で、何があった」
単刀直入に時尾留が腕を組みながら、私を見た。
「親友と…ケンカしちゃった」
どんな反応をするかとみんなを見たら、優しい笑みでうなずいてくれてる。
「それが…、私が親に捨てられたってこと、隠してたからなの。そもそも、私が磯崎家に来てよかったのかな…って」
「明寿咲…」
研由が私の目を真っ直ぐ見すえる。
「みんなはキラキラしてるけど、私、普通のキラキラオーラがないそこらにいる人。好かれない、地味子。こんな私が…4人に心配かけちゃって、親友を傷つけて…もうっ、どうしよう…」
「ほんっと、明寿咲はネガティブだなぁ…龍二から聞いてるよ。俺たちと出会う前は、色々大変だったんだってね?けど心配いらない。だって、俺とか俺とか、明寿咲のこと好きだし」
時尾留がヘラヘラと笑いながらストレートに言ってくる…恥ずかしい。
「俺とか俺とか…って」
私のツッコミも、李月にスルーされる。
「そんなこと言ったら、僕の方が明寿咲のこと、大大だ〜い好きだもんっ!明寿咲って正義感強いよね。鬼塚に言い返してたし」
「お前ら…本題に戻るぞ」
研由が2人に注意すると、
「とか言って、絶対研由も明寿咲のこと、気になってるだろ〜?」
時尾留も負けじと言い返す。
けど2人とも、私を励ますためにそうやって言ってくれるんだろうな。
「俺も明寿咲のこと好きだけど、今は明寿咲ののとを考えないと」
サラリと龍二もほめてくれて、顔が赤くなってる…自信がある。
ピンポーン
突然、玄関のチャイムが鳴る。
「はーい」
私がその場を去り、玄関を開ける。
「えっ…女の子⁉︎」
黒縁メガネのキリッとしたつやのある金髪の女性が、驚いたように私を見つめた。
「はい…女、ですが…」
「わたくし、読者モデルの李月くんのマネージャーなんです。でもまさか、女の子がいるなんて…よかったら、あなたも読者モデルやりませんか⁉︎ あの、今月号のだけでもいいのですが…‼︎」
早口で話す、李月のマネジャーさんという人。
「り、李月〜!マネージャーさんが呼んでるよ」
思わず李月を呼んで、助けを求めると。
「ん。ありがと」
クールモードの李月が、部屋から出てくる。
「李月くん!女の子がいるなんて…教えてくれればよかったのに。そうだっ!お兄ちゃんたちと女の子…名前は?」
「明寿咲です」
「明寿咲ちゃん!で、今月の読モをしてほしいんだけど、どう?」
李月をチラリと見てみると、クールモードの顔の下であきれてる。
自分で決めろ、ってことだよね。
そういえばだけど、李月は読モなんだ…忘れてた。
「み、みんなは?」
振り返ると4人がすでにいて、
「俺、明寿咲次第かな」
「俺も」
「じゃあ、俺も」
研由、龍二、時尾留がそういうなら…
「私、読者モデルしたいです!」
「俺ら3人も、今月号だけ読モになりたいです」
時尾留が代表していうと、李月のマネージャーさんが満足そうにうなずく。
「あ、自己紹介が遅れましたね。申し訳ありません。私は和花(わか)です、よろしくお願いします。さっそくですが、そうですね…撮影現場に移動しましょう‼︎」
車に揺られること40分。
撮影現場というお花畑にやってきた。
「明寿咲ちゃん、この花持って、微笑んで!あ、そうそう、いい感じ‼︎」
バッチリメイクをしてもらい、ひとりで撮った後、研由と撮ることになった。
撮影現場は、スタッフさんが大忙し‼︎
「では、『おでこコツン』で撮りましょう‼︎」
そういう指示が出たから、研由と近づいて、額を合わせる。
カメラが近い…‼︎
ドキドキしながらも、1枚目は無事に撮れたらしい。
「次は遠くから撮るので、そのまま動かないでください‼︎」
そう言われて、カメラやスタッフさんが遠のくと、研由が意地悪に笑う。
「明寿咲の顔、めっちゃ赤い」
「そそそそ、そんなことないし!」
「体調不良…?でも、熱はなさそう」
し、至近距離で熱はなさそう、って‼︎
「なんでわかるの…」
「だって、額が触れてるけど、そんな熱くないし」
さらにドキドキするっ…。
まさに、恋のハプニングだ…‼︎
そして、無事に撮影が終わって、今は時尾留の番。
読モの女の子のえりをつかんで、顔を覗きこむというシチュエーション。
当然、高身長でイケメンの時尾留に見つめられているその女の子は顔を真っ赤にしてなんとか撮影できいる、という感じ。
しかも、ちょっと素が出ていて、小悪魔のような笑顔でじっと女の子を見つめる。
一方、李月は慣れたように撮影を終えていた。
龍二も他の女の子に、『頭ポン』をしている。
少しひかえ目だけど優しい笑顔に女の子がぽわわわ〜んってなってる…恐るべし、学園の王子様‼︎
「撮影は終わりです、ありがとうございました」
和花さんがニッコリと私たちに微笑みかける。
「では、送っていきますので車に乗ってください」
「ありがとうございます」
5人そろって声を合わせ、お礼を言う。
「そういえば、なんだけど。ケンカしちゃった親友の千紗には、私の思う、素直な気持ちを伝えようと思う。励ましてくれて、ありがとう」
4人に私の気持ちを伝えると、みんなが応援してくれた。
この撮影を通してわかったよ。
私は、この4人がとっても大切なんだって。
それと、少しホッとしていた…血相を変えた和花さんが来るまでは。