キッチンは2階だから、リビングの1階へ恥ずかしくて急いで運ぼうとすると、階段に研由がいた。
「あ、明寿咲。夜ごはんありがと」
「どういたしまして」
「俺も手伝う。他のおかず、2階にある?」
私がうなずくと、研由は階段をのぼっていく。
私は、階段をおりる__
「やべ…っ」
振り返る暇もなく、階段の上から研由が転がり落ちてくる。
「けんっ、ゆ‼︎」
そのままよけることができず、階段の下に落ちてしまった。
「痛たたた…」
私が目を開けると、目の前に研由の顔が‼︎
研由の両手は私の顔の横の床についている。
こ、これって‼︎
__ダブル壁ドンならぬ、ダブル床ドン⁉︎
研由は一瞬顔を歪めた後、
「明寿咲、ごめん。せっかくのおかずを台無しにして」
と至近距離で話しかけてきた。
今はそれどころではないよ‼︎ …色々な意味で。
「それはいいんだけど、研由は大丈夫⁉︎ いつから体調悪かったの?」
「体調は悪くないんだけど…ちょっと科学部の…まあ、徹夜で色々やってた。寝不足かな」
よく見ると、研由は目の下にクマをつくっていた。
「本当に大丈夫⁉︎ だ、誰か!」
この状態もなんとかしてほしいけど、今は研由がピンチだ‼︎
「研由…と明寿咲‼︎ 大丈夫か⁉︎ 大きな音がして、様子を見に来たら…」
龍二がすぐに来てくれた。
2階からも時尾留がかけつけてくれた。
「2人とも‼︎ どこか痛いところは?」
「私は…アザができちゃった…かも」
丸い紫色に染まった数々のアザ。
痛くないはずがない。
けど、研由はもっと…
「両手が、痛い…指が…」
「研由、すぐ病院行こう。龍二、李月呼んで明寿咲をみて」
「わかった」
時尾留、さすがみんなの兄貴としてテキパキと指示を出していた。
「研由、立てるか?」
「ああ…」
「お前、無理しすぎだっつーの」
研由は時尾留に支えてもらいながら、病院へ行った。
「明寿咲、大丈夫か?ホントに」
「うん…李月は呼ばなくていいの?」
「わかってないな、明寿咲は。俺と2人の時間、つくってよ」
いつもは優しい龍二が…意地悪な笑みを浮かべてる。
ギャップ、っていうのかな。
龍二の意外な一面‼︎
「アイツが昼寝してるのが悪いし」
李月、昼寝してるんだ…。
のんびり屋さんだな。
「ふふ。そっか!何する?」
「ん〜。そうだな〜。ハグ、とか?」
「も〜!」
からかわれて結局したのは、家にある誰もみたことがないというDVD。
みてみたらホラー系で、お互いの手を痛いくらい握り合った。
途中で2人が帰って来て、少しホッとした。
「ただいま…」
「研由、お前大丈夫か⁉︎」
「ああ、両手全指骨折だけだった」
両手、全指骨折⁉︎
龍二もポカーンとしちゃってる。
そりゃあ、双子の兄貴が平然とそう言うから、龍二だってビックリするよね。
「明寿咲」
「はい!」
呼ばれてピシッと背筋をのばす。
「さっきは…悪かった…その…ダブル床ドン…」
ええ‼︎ 学園の王子様の顔!顔面が近くにあったら、破壊力がすごすぎますよ。
でも、研由もダブル床ドン、意識してたんだ…。