腫れぼったい目を鏡の前で見つめる。
あれから、教室に戻ってひとことも李月と会話をせずに、休み時間をむかえてしまった。
李月と気まずい…。
とはいえ、仲直りしておかないと…。
「どうする?明寿咲」
鏡の自分に問いかける。
アホらしい。さっさと解決策を見つけなくちゃ。
水道で目を洗うと、私は席についた。
そして、休み時間が終わり、授業が始まる。
…ん?
筆箱の中に、紙きれが入っている。
まさか、鬼塚さんからなにか⁉︎
慌てて紙を開いてみる。 
【放課後、2人で話したい。明寿咲の部屋、3人にナイショで行く。明寿咲もナイショにして
李月】
り、李月から手紙⁉︎
いやいや、ギクシャクしちゃったからそれを謝ろうってことだよね。
李月の横顔を盗み見る。
カッコいい…違う、違う!話がそれてる。
私って、さっきまでは泣いてたのに、今はちょっと…ドキドキ、してる。単純なのかな。
ついにむかえた放課後。
私はダッシュで家に帰り、自分の部屋にこもる。
しばらくすると、李月が無言で入って来た。
「明寿咲さ、俺のこと、嫌い?」
「え…?」
唐突に言われて、戸惑う。
どういうこと…?
「俺、明寿咲しか大切じゃないから家と学校で態度が違うんだけど。それが嫌だった?嫌なら嫌って言ってほしい。だから怒ってたんだろ」
しばらくの沈黙が続いた後。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「……違うの。私は…李月に嫉妬してただけ」
「は?」
「いい環境で生まれて、学校では学園の王子様として有名。話すだけで、すぐいいなと思われる。そんな人に、私もなりたかった。見つめる側じゃなくて、見つめられる側に」
李月は、ポカーンとしてる。
ひがまれているのは言えなかったけれど、見つめられる側になりたかったのは事実。
そうしたら、ひがみとかそういうのがないと思うんだ。
「だからね、李月。私は李月のことを同級生として、義理の兄妹として、学園の王子様として。ダブルフェイスなのも、全部受け止めたいなって思ってるよ。子犬のときも、クールで不良のときも。今のままで大丈夫。だって、李月に嫌われたくないし、大切な、好きな人だから」
李月の顔がみるみる真っ赤になっていく。
あ、あれ?私、変なこと言ったかな⁉︎
「やるねー、明寿咲」
ドアからひょっこり顔を出したのは…
「と、時尾留…に、研由と龍二も!どうしたの?」
「明寿咲、どうしたので済む?僕は、問い詰めたいけどね。どこから盗み聞きしてたのとか、大事なときに手ェ出すな‼︎ ぶん殴るぞ…ってね」
やっぱり李月は李月だ。
どっちの顔も、本当なんだ。
今、子犬も不良も混じってた。
「入んな。クソ野郎ども」
「はいはーい」
「李月、こわっ」
李月が一喝すると、龍二があきれたように、研由がからかうように言った。
完全に近くにいないのを確認すると、李月は私を壁に追いつめた。
壁に乱暴に手をついた後、
「あ、明寿咲。さ、さ、さっきのは家族として、だよな…」
つぶやくように、だけど私に訊くように言葉を発していた。
「す、好きっていうやつ…」
あ‼︎ そういうこと…!は、恥ずかしい…告白したと思われてたんだ…。
李月から逃れようとすると…って…え?
待って、今壁ドンされてた…⁉︎
「逃がさない」
わわっ…逃げた私の手を引いて、バックハグをされる。
「すごく、かわいい…」
恋のハプニング…さすがだよ。
こんな簡単にそういうことできるのって、本当にすごい。
「もう!誰にでもそういうことするのって…」
「明寿咲だけなんだけど。俺がこういうことできるのって。さっきも言ったけど、俺の大切な人は、いつまでも明寿咲しかいないから。忘れんなよ」
ぎゃー‼︎
バックハグしながら耳元でささやくのって、反則だよ‼︎
しかも、不良キャラで言われるのって…ギャップ萌え不可避!
と、思ったら。
パッと手をはなして、
「前に研由に邪魔されて言えなかったこと、今言うね。『守りたくなっちゃう』」
と子犬モードの笑顔で言われる。
ドキドキドキドキ。
どうしよう…心拍数がっ‼︎ 心拍数がぁぁ…!