糖分取りすぎ警報‼︎

その時。
「おーい!2人とも、部活の見学、行かないの?」
振り返ると、研由が大きく手を振っている。
なんか、研由もキャラ変した⁉︎
「おい、研由…」
わ、また李月が不良っぽくなった。
「お前、自分で立ち上げた科学部で忙しいつってただろ。なんでここにいるんだ?」
科学部って…自分で立ち上げたって…。
すごすぎる‼︎
「いや、そうなんだけど…今日は疲れたから帰りたいって言ったら、いいよって」
「ふーん。女子は大丈夫だったのかよ」
「まあね。ちょっと退けって笑顔で言っておいた」
スゴい…さすが『ウワサの4兄弟』だ。
モテモテだし、『学園の王子様』と呼ばれるのも納得。
「なんでこのタイミングで…研由…お前シメるぞ」
ボソッと李月が言うと、
「は⁉︎ なにが⁉︎ やめろよ」
「じゃあ、今日の夜ご飯ぬきな!」
「もっと嫌だな。夜ご飯を食べないと、メリットもあるけどデメリットもある。太りやすくなるとか、痩せるけど筋肉が落ちるとか。その他、食べたすぎて夢にも出てきたり、ストレスを感じることが増えるとかさ。体調も崩すかもしれない。バランスの良い食事と1日3食、必ず食べる。それが1番いい。このこと全て、朝ご飯でも夜ご飯でもそうだ」
…す、すごい…。
今日、朝食ぬきって悪いことしちゃったな。
でもこれがパッと出てくるって本当にすごい。
当たり前だけど、色々できないことが多いんだよね。
李月は面食らってるみたい。
「はいはい。お前の天才モードいきなり出るな」
「お前もそうだろ‼︎ 人懐っこくてかわいいキャラから、すぐにクールで不良キャラになるし」
仲良くていいな。
きっと、ずっとこの人たちは支え合って生きていくんだろうな。
自分とは違う環境に少し、胸がジクジクした。
「なぁ、明寿咲。俺たちの妹ってこと、忘れんなよ」
研由が唐突に言った。
「あぁ?なんだよ急に」
「明寿咲は俺たちと本当の兄妹じゃないけど…これから、というか、この瞬間から、この瞬間も、か。俺たちの妹だからさ」
すぐに私の感情を読み取った研由がフォローしてくれているのだとわかった。
「兄妹の絆、ってヤツか」
「ま、そういうことにしておいてあげる」
「違うのかよ⁉︎」
まだぎゃーぎゃー言ってる2人を見たら、私もなんだかここに居ていいんだなって…なんだろう…居場所、この言葉がぴったりだ。
やっとステキな居場所を見つけることができた。
私は翌日、寝坊しないように早く起きた。
ちゃんとご飯は食べなきゃ、って昨日思ったから。
キッチンに顔を出した研由と、挨拶を交わす。
「おはよう」
「おはよ。作ってくれてありがと」
まだ眠そうな目をこする研由に、笑みを向ける。
「こちらこそ。昨日、勉強になったから。研由の頭の良さも、優しさもすごくて、嬉しかった」
「それはよかった。俺さ、昨日…カッコ悪いことしたんだ」

なんのことだろう。
「俺、実は途中から見てたんだ。李月が2人の男子を追いはらったところから。そのまま帰ろうと思ったんだけど、なんか2人がいい感じで…。アイツに、李月に取られたくなかった。だから、わざと声をかけて、2人の邪魔をした。ごめん。すごくカッコ悪いからさ」
そうだったんだ。
まあ確かに李月が何を言おうとしたのかは気になったけど、そのときは忘れちゃったからな。
「でも…正直に話してくれてありがとう」
「じゃあさ、このこと、俺たちだけのヒミツにしてくれない?」
「ヒミツ?いいよ」
指を絡めて、懐かしい指きりの歌を歌う。
「懐かしいな」
「うん」
なんだか、心が温かい。
そう思って、ふとフライパンに目を向けると。
「ああっ‼︎ 卵焼き、焦がしちゃった!」
「別にいいよ。だって、卵には食中毒の原因菌となるサルモネラ菌という菌が付着していることがあるんだけど、サルモネラ菌は75度で1分以上の加熱で死滅する。だから焦げた方が、サルモネラ菌が完全に死滅してるって断言できるでしょ」
フォローしてくれているんだろうけど…ちょっと意味がわからない。
フライパンの火をとめて、
「そ、そうだね。ありがと…」
私が心の中で苦笑いしていると、
「おはよ。今日は明寿咲、早起きじゃん。昨日、変な男に絡まれたんだって?しかも、俺の同級生。またなんかあったら言えよ」
「おはようっ、ありがとう、時尾留」
「軽いな。本当に大丈夫か?」
照れ笑いをごまかして、うなずく。
「おい、卵焼き…」
「ご、ごめん。焦がしちゃった」
「うまそう。俺、ちょっと焦げた卵焼き、好きなんだ」
みんな、優しい…。
磯崎家は、全員イケメンだし、性格もイケメンだからモテるんだろうな。
「「おはよう」」
「あっ、龍二と李月。おはよう」
「話が聞こえた‼︎ 明寿咲の卵焼きぃ?食べる、食べるぅ〜♡ん、おいしい!」
李月は私が持っていた菜箸を取ると、出来たての焦げた卵焼きを口に運んだ。
「熱っ…けど、めちゃくちゃおいしい!恋の味、っていうのかな♡」
「は、恥ずかしいよ…こ、恋の味って何よ…」
もう、『学園の王子様』全員集合のパジャマ姿、私しか知らないよね。
しかも、そのひとりから、作った卵焼きを、恋の味とかよくわからないこと言われるし…っ。
「俺の食いたいんだけど」
李月から菜箸を奪うと、龍二がフライパンの卵焼きの一切れを食べる。
「ちょっと、朝ご飯が減っちゃうよ‼︎ もうこれでつまみ食いはおしまいだよ」
「今は全体の約20%減少。5人が均等に、つまみ食いした分もみんなと同じ量にするためには…」
また天才モードON ⁉︎
研由は、李月もだけど、オンオフがはっきりしてる。
「ご馳走様でした」
あの後、しっかり研由が5等分してくれて、それぞれ登校した。
「おはようっ、明寿咲ちゃん」
鬼塚さんに挨拶されて、嫌な汗が伝う。
「ねぇ、私のお兄ちゃんに文句言ったってホント⁉︎ それで、李月くんに助けられて、李月くんと研由先輩と帰ったの⁉︎ アンタ何様⁉︎」
見られてたんだ…。
千紗の姿を探したけれど、まだ来ていない。
いつも来てるはずだから…休み⁉︎
「あなたのお兄ちゃん、川にゴミ捨ててたから注意したんだけど?それが悪いことなの?むしろお兄ちゃんがダメじゃない?」
またやってしまった…。
私の短所だ…。
「じゃあ、逆に訊きますけど。李月くんたちとは、どういう関係なの?」
「学級委員だからって調子乗らないでくれない?なんでそんな知りたがるの?」
「ねぇ、訊いてるんだけど‼︎」 
「私もだよ」
私たちが睨み合っていると、李月が無言で教室に入ってきた。
「…っ!李月くん、おはよ〜」
私を睨んでいた人とは別人じゃないかというほど、態度を変えた鬼塚さん。
「おはよ」
李月は表情ひとつ変えずに、鬼塚の横を通り過ぎて、私のところへ来た。
「明寿咲、これ。忘れ物」
鬼塚さんの表情がサッと変わる。
怒り、嫉妬、劣等感。
そんな気持ちで私を見つめている気がする。
李月…あなたが私に接してるせいで、私がひがまれてるんだよ?
ちょっとは気持ち考えてよ。
まぁ、わかんないよね。男子なんだし。いいね、男子は。そうやってひがみとか、辛い思いもしないんだし。
「…ありがと」
私はそれ以上、まわりの視線に耐えられなくて、忘れ物のノートを奪うように取ると、廊下に飛び出した。
あのノート、わざと家に置いてきたのに。
どこに行くわけでもなく、ひたすら廊下を走る。
「ねえ知ってる?研由先輩って、期末テストも中間テストも、全部上位にいるんだよ。悪くて3位だって!羨ましいよね〜」
へえ。研由って、そんなに頭いいんだ。
普通に頭いいのは知ってたけど、それほどとは思わなかった。
「うんうん!でも、あの龍二先輩と双子だとは思えないよね‼︎ 全然雰囲気違うし。私、『学園の王子様』たちに会うために入学したのに、同級生の李月様とは違うクラスで、まだひとこともしゃべったことないんだよね〜」
「それは私もだよ!だけど〜、私は、いつまで経っても研由先輩推し‼︎」
「えー、私は李月様が気になってるかも‼︎ でも、他の王子様も…」
通りすがりの女子たちの会話を聞きながら、走る、走る、走る。
「危なっ」
「あ、ごめんなさ…え?龍二…先輩」
私的には、ぶつかりそうになったことよりも、呼び捨てにしそうになったことが危ない。
周りに人がいなかったことが幸いだ。
「あれ、明寿咲じゃん。どうした?なんか、泣いてるけど」
「私、泣いてる…?」
「うん。なんかあった?」
あったよ。すごく。
親に捨てられ、『学園の王子様』と義理の兄妹になって。さらには、同居して。
『学園の王子様』のひとりと同級生で、席も隣で。嫉妬されて…。
私があの親に生まれてさえいなければ。
私がこの世に存在しなければ…。
「…死にたい」
これが、私の本音だ。
捨てられるとき、何度も思った、本当の気持ち。
「…明寿咲…」
「私が生まれてなければ、こんな辛い思いすることなかった。だから、あの川で…一瞬、死のうと本気で思った」
龍二が、悲しそうな瞳で私を見つめた。
「だけど、あのとき龍二が来たから、死ねなかった。…もう、親も、学校も、意味わかんない学園の王子様?ウワサの4兄弟?も、ホントに嫌い。過去なんか、忘れればいいのにね。すぐに死ねばよかった」
言ってから、言いすぎたと後悔した。
けれど、今さらあとにひけない。
そう思ったとき、龍二が口を開いた。
「知ってた?
『吐く』っていう字あるでしょ。
前にも、死にたいって言ってたじゃん?
口からマイナスな言葉を言わないように、減らしていけば願いは『叶う』んだ。
面白いでしょ?これで吐くっていう字から、マイナスな言葉を減らしていけば、願いは叶う!」
龍二がドヤ顔で言う。
私はビックリして、龍二の顔を2度見する。
ふっ、と龍二は優しい表情に戻って、
「だから、死にたいなんて言わないで。俺の願いは、みんなが…、明寿咲が生きてくれることだから。俺の願いを叶えるために、明寿咲が、マイナスな言葉を減らしてほしい。明寿咲は、人のために強くなれる人だから。それがたとえ困難だとしても、俺は支えるよ。人生は山あり谷あり!今が谷だったとしたら、次は山だ!きっといい景色__未来が待ってる!大丈夫だよ、明寿咲はひとりじゃない。俺だって、明寿咲の見方だしさ。辛いときは、一緒に苦しもうよ。楽しいときは、全力で笑おうよ」
龍二を責めるようなことを言ったのに、それを裏返してくれるような明るい言葉で、私を励ましてくれる。
龍二はいつだって優しい。
だったら私は…龍二に恩返しをしたい。
マイナスな言葉を減らして、吐くから、叶う、にしたい。
「う〜…」
かわいたはずの涙。
目から流れる、大粒のしずく。
「明寿咲、実はね、明寿咲が生まれて来てくれたおかげで、俺は明寿咲に出会えた。俺、嬉しいんだ。だから、明寿咲と橋で会ったとき、死ぬのを邪魔してよかったって思ってる。明寿咲は人を幸せにしてる。俺は今、すごく幸せだなって思うよ。生きてるだけで、幸せなんだよ。だから、絶対に自ら死ぬなよ」
私はうなずくことで精一杯だった。
「過去、無理に忘れなくていいんだよ。過去には辛いこともあったけど、幸せなことが1度もなかったわけじゃないでしょ。その辛いことと幸せなことを、『過去』にまとめないで、『辛かった過去』、『幸せだった過去』にわければいいと思う。辛かった過去は自分が強くなるための種だったと思えばいい。幸せだった過去は、しっかりと幸せをかみしめればいいよ」
私はチャイムが鳴るまで、ずっと泣き続けた。
腫れぼったい目を鏡の前で見つめる。
あれから、教室に戻ってひとことも李月と会話をせずに、休み時間をむかえてしまった。
李月と気まずい…。
とはいえ、仲直りしておかないと…。
「どうする?明寿咲」
鏡の自分に問いかける。
アホらしい。さっさと解決策を見つけなくちゃ。
水道で目を洗うと、私は席についた。
そして、休み時間が終わり、授業が始まる。
…ん?
筆箱の中に、紙きれが入っている。
まさか、鬼塚さんからなにか⁉︎
慌てて紙を開いてみる。 
【放課後、2人で話したい。明寿咲の部屋、3人にナイショで行く。明寿咲もナイショにして
李月】
り、李月から手紙⁉︎
いやいや、ギクシャクしちゃったからそれを謝ろうってことだよね。
李月の横顔を盗み見る。
カッコいい…違う、違う!話がそれてる。
私って、さっきまでは泣いてたのに、今はちょっと…ドキドキ、してる。単純なのかな。
ついにむかえた放課後。
私はダッシュで家に帰り、自分の部屋にこもる。
しばらくすると、李月が無言で入って来た。
「明寿咲さ、俺のこと、嫌い?」
「え…?」
唐突に言われて、戸惑う。
どういうこと…?
「俺、明寿咲しか大切じゃないから家と学校で態度が違うんだけど。それが嫌だった?嫌なら嫌って言ってほしい。だから怒ってたんだろ」
しばらくの沈黙が続いた後。
私は、ゆっくりと口を開いた。
「……違うの。私は…李月に嫉妬してただけ」
「は?」
「いい環境で生まれて、学校では学園の王子様として有名。話すだけで、すぐいいなと思われる。そんな人に、私もなりたかった。見つめる側じゃなくて、見つめられる側に」
李月は、ポカーンとしてる。
ひがまれているのは言えなかったけれど、見つめられる側になりたかったのは事実。
そうしたら、ひがみとかそういうのがないと思うんだ。
「だからね、李月。私は李月のことを同級生として、義理の兄妹として、学園の王子様として。ダブルフェイスなのも、全部受け止めたいなって思ってるよ。子犬のときも、クールで不良のときも。今のままで大丈夫。だって、李月に嫌われたくないし、大切な、好きな人だから」
李月の顔がみるみる真っ赤になっていく。
あ、あれ?私、変なこと言ったかな⁉︎
「やるねー、明寿咲」
ドアからひょっこり顔を出したのは…
「と、時尾留…に、研由と龍二も!どうしたの?」
「明寿咲、どうしたので済む?僕は、問い詰めたいけどね。どこから盗み聞きしてたのとか、大事なときに手ェ出すな‼︎ ぶん殴るぞ…ってね」
やっぱり李月は李月だ。
どっちの顔も、本当なんだ。
今、子犬も不良も混じってた。
「入んな。クソ野郎ども」
「はいはーい」
「李月、こわっ」
李月が一喝すると、龍二があきれたように、研由がからかうように言った。
完全に近くにいないのを確認すると、李月は私を壁に追いつめた。
壁に乱暴に手をついた後、
「あ、明寿咲。さ、さ、さっきのは家族として、だよな…」
つぶやくように、だけど私に訊くように言葉を発していた。
「す、好きっていうやつ…」
あ‼︎ そういうこと…!は、恥ずかしい…告白したと思われてたんだ…。
李月から逃れようとすると…って…え?
待って、今壁ドンされてた…⁉︎
「逃がさない」
わわっ…逃げた私の手を引いて、バックハグをされる。
「すごく、かわいい…」
恋のハプニング…さすがだよ。
こんな簡単にそういうことできるのって、本当にすごい。
「もう!誰にでもそういうことするのって…」
「明寿咲だけなんだけど。俺がこういうことできるのって。さっきも言ったけど、俺の大切な人は、いつまでも明寿咲しかいないから。忘れんなよ」
ぎゃー‼︎
バックハグしながら耳元でささやくのって、反則だよ‼︎
しかも、不良キャラで言われるのって…ギャップ萌え不可避!
と、思ったら。
パッと手をはなして、
「前に研由に邪魔されて言えなかったこと、今言うね。『守りたくなっちゃう』」
と子犬モードの笑顔で言われる。
ドキドキドキドキ。
どうしよう…心拍数がっ‼︎ 心拍数がぁぁ…!
「夜ごはん食べたいんだけど」
「おまっ、タイミング見計らってただろ…‼︎」
今度は研由がドアから顔を出して、叱られてる。
「別にいいでしょ。明寿咲、お願い」
「わ、わかった」
いいタイミングで出てきたな…今だけは。
だって、どうしたらいいかわからないくらい、ドキドキしてたから。
夕食のマカロニサラダを作っていると、時尾留がキッチンに顔を出した。
「お、マカロニサラダ?はやく食いたい」
そこまで言うと、言いにくそうに、
「あ、明寿咲…」
「何?」
「あのさ…あーん、して」
あーん⁉︎
「ど、どういうこと⁉︎」
「だから、あーんして、って言ってる。前は、李月と龍二しか食ってなかっただろ。俺は食ってない。だから、別にいいだろ」
そ、それは研由もですけどね‼︎
けど、『学園の王子様』のひとりのすね顔を見て、何も言えなくなった。
いいのは顔と身長だけで、実は中身は小悪魔…、だなんて…!
この…このっ…小悪魔め‼︎
「わかったよ…はい、あーん」
「なんで棒読みなの‼︎ まあいいや、あーんもマカロニサラダも、ご馳走様」
「もう!」
私がフィッとそっぽを向くと、かわいい、と声がする。
キッチンは2階だから、リビングの1階へ恥ずかしくて急いで運ぼうとすると、階段に研由がいた。
「あ、明寿咲。夜ごはんありがと」
「どういたしまして」
「俺も手伝う。他のおかず、2階にある?」
私がうなずくと、研由は階段をのぼっていく。
私は、階段をおりる__
「やべ…っ」
振り返る暇もなく、階段の上から研由が転がり落ちてくる。
「けんっ、ゆ‼︎」
そのままよけることができず、階段の下に落ちてしまった。
「痛たたた…」
私が目を開けると、目の前に研由の顔が‼︎
研由の両手は私の顔の横の床についている。
こ、これって‼︎
__ダブル壁ドンならぬ、ダブル床ドン⁉︎
研由は一瞬顔を歪めた後、
「明寿咲、ごめん。せっかくのおかずを台無しにして」
と至近距離で話しかけてきた。
今はそれどころではないよ‼︎ …色々な意味で。
「それはいいんだけど、研由は大丈夫⁉︎ いつから体調悪かったの?」
「体調は悪くないんだけど…ちょっと科学部の…まあ、徹夜で色々やってた。寝不足かな」
よく見ると、研由は目の下にクマをつくっていた。
「本当に大丈夫⁉︎ だ、誰か!」
この状態もなんとかしてほしいけど、今は研由がピンチだ‼︎
「研由…と明寿咲‼︎ 大丈夫か⁉︎ 大きな音がして、様子を見に来たら…」
龍二がすぐに来てくれた。
2階からも時尾留がかけつけてくれた。
「2人とも‼︎ どこか痛いところは?」
「私は…アザができちゃった…かも」
丸い紫色に染まった数々のアザ。
痛くないはずがない。
けど、研由はもっと…
「両手が、痛い…指が…」
「研由、すぐ病院行こう。龍二、李月呼んで明寿咲をみて」
「わかった」
時尾留、さすがみんなの兄貴としてテキパキと指示を出していた。
「研由、立てるか?」
「ああ…」
「お前、無理しすぎだっつーの」
研由は時尾留に支えてもらいながら、病院へ行った。
「明寿咲、大丈夫か?ホントに」
「うん…李月は呼ばなくていいの?」
「わかってないな、明寿咲は。俺と2人の時間、つくってよ」
いつもは優しい龍二が…意地悪な笑みを浮かべてる。
ギャップ、っていうのかな。
龍二の意外な一面‼︎
「アイツが昼寝してるのが悪いし」
李月、昼寝してるんだ…。
のんびり屋さんだな。
「ふふ。そっか!何する?」
「ん〜。そうだな〜。ハグ、とか?」
「も〜!」
からかわれて結局したのは、家にある誰もみたことがないというDVD。
みてみたらホラー系で、お互いの手を痛いくらい握り合った。
途中で2人が帰って来て、少しホッとした。
「ただいま…」
「研由、お前大丈夫か⁉︎」
「ああ、両手全指骨折だけだった」
両手、全指骨折⁉︎
龍二もポカーンとしちゃってる。
そりゃあ、双子の兄貴が平然とそう言うから、龍二だってビックリするよね。
「明寿咲」
「はい!」
呼ばれてピシッと背筋をのばす。
「さっきは…悪かった…その…ダブル床ドン…」
ええ‼︎ 学園の王子様の顔!顔面が近くにあったら、破壊力がすごすぎますよ。
でも、研由もダブル床ドン、意識してたんだ…。
翌朝。
私、今日は日直だからはやく学校に行かなきゃいけないんだ!
みんなにははやく出ますという紙をテーブルに置いておいたから、心配はしないはず。
「明寿咲!俺を置いていくなよ」
振り返ると、時尾留が走りながら来ていた。
「あはは、ごめん、ごめん。でも私、ちゃんと紙に書いておいたよ?」
「知ってる。だから走って来たのに」
わわっ、また時尾留が小悪魔だ。
「昨日は大丈夫だったか?アザだけで済んだ?」
心配してくれるなんて、やっぱり磯崎家のみんなは優しい。
引き取られるのが磯崎家でよかったな。
そう思って返事をすると。
「うん」
「本当か?」
「もう、心配してくれるのはありがたいけど、心配症すぎるよ〜」
なんて言ったら。
「俺がこんなに真剣になるの、明寿咲だけだから。俺の『トクベツ』は、世界中でただひとり、その人は…明寿咲なんだ」
「時尾留…」
「行くぞ」
恥ずかしくなったのか、時尾留がスタスタと歩き出す。
「ま、待ってよ〜」
「待たない」
「小悪魔〜‼︎」
時尾留は無視して進んでいく。
いい言葉を言ったと思ったら、恥ずかしくなっちゃって逃げるとは。
私は小走りで時尾留に追いついた。
「おはよう、明寿咲さん」
教室に入ると、鬼塚さんに挨拶された。昨日は『ちゃん』、だったのに今日は『さん』、だ。
「…鬼塚さん、おはよう」
「また何か用なの?、って顔をしないで。何も言わせないようにするから」
鬼塚さんは私の前にビッ、と1枚の紙をつきつけた。
そこには大きく『羽嶋(はしま) 明寿咲、学園の王子様・磯崎 李月&研由と一緒に下校⁉︎ 熱愛発覚か⁉︎』
という見出し。
羽嶋は、私が学校で名乗っている苗字。
私は元羽嶋家だったから。
「な、何コレ…何かの遊び?やめてよね」
「ふふっ、動揺した?私のお兄ちゃんが撮った証拠写真付きの学校裏新聞。これはさすがに先生には見せられないからね。私がトクベツにもらってきたの〜。前に3人で下校してたところを見たらしいのよ〜。ほらアンタが前、私のお兄ちゃんに注意したとき。李月くんが明寿咲ちゃんをかばったあと、2人で研由先輩と合流したらしいじゃな〜い。ほら、この後ろ姿、アンタでしょ?いったいアンタは学園の王子様方たちとどういう関係なの⁇前はごまかしていたけれど、今日はそういうわけにはいかないよ?ね、あ〜ず〜さちゃんっ!」
私が絶句して黙り込んだとき。
バンッ、と机を叩く音がした。
「明寿咲が気に入らないからって、そんなデタラメな写真使って変なウワサ流さないでよ⁉︎ 明寿咲がかわいそうじゃない‼︎ そもそも、明寿咲が2人と帰ったって証拠はあるの?明寿咲はそんな人たちに興味ないと思うんだけど」
千紗…ごめんね。
私は確かに入学式のときは興味なかった。
けど今は、義理の兄妹となって、同居してるんだよね…。
「はあ?アンタ何?明寿咲明寿咲うるさいんだけど。アンタ関係なくない?逆に、そんなことしてないって証拠はあるの?」
「じゃあ、どっちも証拠はないってことだね。下校してたってことも、してなかったってことも。だから、そういうウワサ流すのやめなよ」
鬼塚さんがギュッと拳を握りしめる。
「この新聞は回収する。だからアンタも明寿咲ちゃんと私の問題には関わらない。それでいいでしょ?」
「でも…」
「千紗、私は大丈夫。だからそんなに気にしないで?」
千紗は渋々といった様子でうなずくと、本当に大丈夫?といった気づかわしげな目でこちらを見つめて来た。
私は小さく首を縦にふる。
「これで解決」
さっきまでのことがウソのようにニコッと笑う鬼塚さん。
「本当に回収してくれるんでしょうねぇ?」
まだ疑わしげな目をむける千紗。
「それは約束だから仕方ない。もうこれでいいでしょ」
「わかった。明寿咲、トイレ着いてきて」
千紗がそう言うと、もうさっきの話題がなくなったから、教室内の空気が和む。
男子ですら、ずっと黙っていた。
というか、ヤンチャな男子たちは外で遊んでいるから、か弱い男子しか残っていない。
学級委員の鬼塚さんには何も言えないみたい。
「うん」
私が返事をすると、トイレではなく空き教室に入った。
「明寿咲、大丈夫?私が休んでたときも、あんなことされてた?」
きっと、トイレは口実だったんだ。
「いや…大丈夫だよ。むしろ、関係ない千紗も巻き込んでしまって、ごめん」
「そんな!明寿咲が困ってるなら、私も一緒に巻き込まれたいよ。っていうか、あの鬼塚‼︎ どんないいがかりよ、学園の王子様と下校してた?ザ!興味なし女子にどんな文句つけんのよ!また困ったことがあれば言ってね」
「あ、ありがとう…」
千紗に隠し事をするのはなんだか申し訳ないけれど、興味なし女子なんてあだ名をつけられちゃったから、余計に言えないよ。
「あの、鬼塚さんのお兄ちゃん、元生徒会長で悪いことばっかりしちゃったからやめさせられたらしいよ。それで心を入れ替えて、新聞部に入ったらしいんだけど…色々おどして自分が部長になって、妹の気に入らない人の記事を作るとかサイテーだよね。まあ、それよりも、確認なんだけど、明寿咲は学園の王子様たちには興味ないよね?誤解したくないから」
「…うん」
そう言うしかないよね。
私は話題を変えるように、
「戻ろうか」
「そうだね」
教室へ戻ると、鬼塚さんが李月と話していた。
ううん、…問い詰めてる?
「李月くん!明寿咲ちゃんとは、どういう関係なの?」
「それ、教える必要ある?お前、しつこいんだけど」
「頑なに教えたくない理由があるの?すごくじれったい」
また教室内の雰囲気がピリピリしてる。
「あ、明寿咲ちゃ〜ん!本人に訊くのが1番手っ取りばやいね。次の休み時間、ちょっとお話聞かせて〜?」
うっ…目をつけられたみたいだ。
前からだけど。
次の休み時間、私はそろりそろりと教室を出る。
ずっとトイレに隠れていよう、そう思って廊下に出たら、グイッと腕を引っ張られる。
「りづ…」
李月じゃない!
空き教室へ連れて来られると、鬼塚さんと鬼塚さんの取り巻きに囲まれた。
「いい加減、アンタと学園の王子様たちの関係を知りたいの。教えないと、私のお兄ちゃんが李月くんにどんなことするか…わからないよ?」
「それは、どういう…?」
「もう!とにかく言いなさい!アンタとどういう関係なの⁉︎ 言わないと、李月くんか他の王子様方が痛い思いするかもよ、ってこと‼︎」
私が言わなかったら…誰かが痛い思いをする?
そんなのって…私が嫉妬されるだけなら、別にいいかもしれない…?
「わかった。私と学園の王子様たちは…同居してる」
鬼塚さんは、目をカッと見開いて、何度かまばたきをする。
「それって…ホント⁉︎ 大ニュースじゃない‼︎ そんなこと教えてくれて、ありがと〜!」
大げさにリアクションをすると、
「これ、特定の人にしか言わないから安心して」
とニッコリ笑う。
その笑顔が、なんだか怖い。
「あの人に言おうかな〜?どの人に言おうかな〜?」
鬼塚さんの『特定の人』に言うことで、私の関係が変わるなんて、思いもしなかったんだ__